アーノルド・シュワルツェネッガーが書いた本『人の役に立つ』を紹介します。「大した本じゃないでしょ?」と疑う人もいるかもしれませんが、彼の人生で体現されている「目的を持つこと」「成長し続けること」「誠実かつ謙虚であること」「自分がコントロールできることにフォーカスすること」の大切さを知ることができる良本です。
~ ~ ~ ~ ~
アーノルド・シュワルツェネッガー
今回も、前回に続いてアメリカの政治家が書いた書籍の紹介です。
2003年から2011年までカリフォルニア州知事を務めたアーノルド・シュワルツェネッガー(Arnold Schwarzenegger, 1947 -)が2023年に書いた『Be Useful: Seven Tools for Life(邦訳)人の役に立つ:人生の7つのツール)』です。
私は2004年から2010年までサンフランシスコのベイエリアに住んでいたので、私のカリフォルニア滞在期間がすっぽり彼の在任期間内に収まります。当時現地のニュース番組で、知事としての彼の姿をよく見ていたのを覚えています。
もちろん、世界的には、政治家よりも映画スターとして圧倒的に認識されています。大ヒットした『ターミネーター』や『プレデター』での強靭なイメージのみならず、日本ではカップヌードルの宣伝でヤカンを持ち上げるコミカルなイメージなどから「シュワちゃん」という親しみやすい愛称でも知られていますね。
映画スターとして活躍する前は、ミスター・オリンピア・コンテストで7度優勝などの実績を持つボディビル界のレジェンドでもあります。
一方で、ボディビルダー時代の大麻やステロイドの使用、知事退任後に明らかになった家政婦との隠し子騒動など、スキャンダラスな話題も少なくありません。
そんな彼が書いた本なので、色眼鏡を通した見方をする人も多いかもしれませんが、そんなことはまったくない、とても素晴らしい人生哲学が述べられた本です。出生地であるオーストリアからボディビル、ハリウッド、そしてカリフォルニア州知事にまで至る道を切り開く原動力となった彼の信条が分かりやすく、時にやや適切ではない言葉を使って(笑)まとめられています。
タイトルが表す「人の役に立つ」をはじめに、このサイトでも繰り返し書いている「目的を持つこと」「成長し続けること」「誠実であること」「謙虚であること」「好奇心を持つこと」「相手の話を聞くこと」「自分がコントロールできることにフォーカスすること」の大切さが、ストイックなまでに地で行く彼の生き方の中で描かれており、個人的にも強く共感します。また、映画製作のエピソードなどもいくつか織り込まれているため、彼の映画を何本も見た私としてはその点でも楽しめました。
なお、英語のオリジナル版は2023年10月に発売されていますが、著名人の良著にもかかわらず、意外にも日本語翻訳版の発売はまだないようです。
今回は、その副題にもあり、書籍の中で語られる以下の「人生の7つのツール」の中から4つをピックアップして説明します。
人生の7つのツール
- 明確なビジョンを持つ – Have a Clear Vision
- 小さく収まらない – Never Think Small
- 死に物狂いで取り組む – Work your ass off
- 売る、売る、売る – Sell, Sell, Sell
- ギアを切り替える – Shift Gears
- 口を閉じ、心を開く- Shut Your Mouth, Open Your Mind
- 鏡を壊す – Break Your Mirrors
~ ~ ~ ~ ~
明確なビジョンを持つ:Have a Clear Vision
まず、シュワルツェネッガーが私たちに強く訴えるのは「自分がどこへ向かいたいのかをはっきりしておくこと」です。
多くの人たちが、道を見失っています。優れた資質を持ちながら、自分の人生をどう生きればよいのか分かっていません。今の仕事を嫌い、人間関係も満たされていません。人生に対するビジョンを持たず、ただ手に入るものを受け入れてきただけだからです。
ビジョンこそが最も重要です。ビジョンとは、人生の目的であり、意味そのものです。明確なビジョンを持つとは、自分の人生をどうしたいかというイメージと、そこにたどり着くための計画を持っていることです。人生で道を見失っている人たちは、そのどちらも持っていません。
例えば、ジムに行くと、ピンポン玉のようにあちこちのマシンを気まぐれに渡り歩いている人を見かけることがあります。彼らには、トレーニングの計画が全くありません。
シュワルツェネッガーはそうした人たちに「どんな目標を持ってジムに来ているんですか?」と声をかけることがありますが、いつも同じような展開になります。
「体を鍛えるためです」と、彼らはたいてい答えます。しかし、何のために体を鍛えるのかを聞くと、明確な回答が返って来ないことが多いのです。
これは重要な問いです。なぜなら「体を鍛える」といっても、その方法は様々だからです。ロッククライマーにとって、ボディビルダーのような体型は役に立ちません。むしろ、余分な筋肉の重さを抱える分、マイナスになることさえあるでしょう。同様に、圧倒的なパワーと瞬発力が求められるレスラーにとって、長距離ランナーのような体型では何の役にも立ちません。
「優れている人」と「そうでない人」の違いは、単純かつ明白です。それは「自己認識」と「ビジョンの明確さ」です。
優れた人たちは、自分が何を達成しようとしているのかを理解しています。そして、そのビジョンに照らして自分の行動をコントロールする規律を持っています。定期的に自分自身と向き合い、ビジョンと共に成長し、進化していきます。優れた人たちは、鏡に映る自分と向き合うことを恐れません。
一方、そうでない人たちは、鏡をまるで疫病神のように避けます。はるか昔にビジョンの本質を手放しています。ビジョンの表面的で自己中心的な浅い側面だけに取り憑かれ、自分自身に翻弄されています。
そのような人たちは、目標を明確にしたり、成功した暁にどう世界に貢献するのかを具体的にイメージする努力をしてきていません。そうする必要があるとも感じていなかったのです。
ただ金持ちになりたいという理由で金融業界に入り、有名になりたいから有名人になり、権力を持ちたいから政界に入ったような人たちです。ビジョンは極めて浅く、それ以上に深く先へ進むことはありません。
重要なのは、モチベーションよりも何よりも先にビジョンがあるということです。もし、目指すべき場所が明確になれば、決断を下すことも容易になります。

~ ~ ~ ~ ~
小さく収まらない:Never Think Small
「自分を制限するな。」これはシュワルツェネッガーらしい信条と言えるでしょう。彼は「自分を制限するのは自分の心だけ」だと言います。
彼が生まれ育ったオーストリアの小さな村では、アメリカでの成功を夢見る者は誰もいませんでした。頂点までたどり着いたボディビルダーの世界を去り、映画スターを目指すことを誰もが馬鹿げていると思いました。また、世界的な映画スターとなった元ボディビルダーが政治を導くことなどできるわけがないと誰もが嘲笑いました。
人生には、いつでもそのような人たちがいるものです。「ありえない」とか「君にはできない」と言ってきます。夢やビジョンが大きければ大きいほど、そうした場面に遭遇する頻度は増え、出会う否定派の数も多くなるものです。
そのような声は無視しましょう。
歴史を振り返れば、偉大な才能の持ち主たちも、まさにこうした理解できない人たちと向き合ってきました。
J.K.ローリングの『ハリー・ポッター』の原稿は、12回も断られました。バットマンやスパイダーマンなど偉大なコミック・アーティストであるトッド・マクファーレンは、様々な出版社から350回も拒絶されました。アンディ・ウォーホルに至っては、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に自身の絵を無償で寄贈した際、なんと突き返されたほどです。
U2やマドンナも、契約を勝ち取る前には複数のレコード会社から断られています。Airbnbの創業者たちは、最初に資金調達をお願いした7人の投資家全員から断られました。アリババの創業者ジャック・マーは、ハーバード大学に10回も不合格となり、ケンタッキー・フライド・チキンの採用試験にさえ落ちました。
20世紀の主要な技術革新を成し遂げた発明家のほとんどが、ある時点では、物事をよく分かっているつもりの「常識ある人々」から、愚かだ、非現実的だ、あるいは単に馬鹿げていると嘲笑された経験を持っています。
こうした否定的な反応は、ビジョンある人たちに別のものをもたらします。それは「モチベーション」です。単にうまくやるためではなく、もっと大きく素晴らしい何かへと進んでいくための力です。
シュワルツェネッガー自身も、自分に向けられるあらゆる否定的な言葉を、自らの原動力へと変えてきました。彼にとっては「ベンチプレスで500ポンド(約227キロ)を挙げるなんて無理だ」と言われるのが、それを実現するための何よりの近道だったのです。
そして、映画スターになるという計画を話したときに笑い飛ばし「お前には無理だ」と言ってくれたことこそが、スターになるための確実な後押しとなったのです。
目標達成への道のりでは、誰もがそれを否定する人たちに直面します。しかし、私たちには選択肢があります。彼らを無視したり、反発力に変えましょう。唯一決してしてはいけないのは、彼らの言葉を信じてしまうことです。

~ ~ ~ ~ ~
死に物狂いで取り組む:Work your ass off
これもシュワルツェネッガーらしい原則ですね。
仕事をきちんとこなす、大切なものを死守する、夢を実現するといった努力を迂回する近道や、成長ハック、魔法の薬は存在しません。この世に1つだけ避けられない真実があるとすれば、努力に代わるものはないということです。
シュワルツェネッガー自身が強調するのは、規律、反復、現場に顔を出すこと、そして気が乗らないときでもやるべきことを毎日実行することです。
彼自身、ボディビルでそれを実践してきました。
地元のウェイトリフティング・クラブでは、セット数や回数に至るまで、その日のトレーニング内容をすべて黒板に書き出し、それらをすべて完了してチェックマークを入れるまでは、決して帰りませんでした。
重要なのは、それが質の高い反復でなければならないということです。つまり、正しい動作を最後までやり遂げることが大切です。驚異的な肉体は、何千回もの平凡に見えるトレーニングを確実に積み重ねることで生まれたのです。
シュワルツェネッガーは、州知事時代などのスピーチをする際も、原稿の表紙に同じように印をつけていました。10回練習すれば、まずまずのスピーチができると分かっていましたが、20回練習すれば、完璧なスピーチができると確信していました。
練習を積み重ねることで言葉がより自然になり、まるで即興で心からの言葉を語っているかのように響きます。練習を重ねれば重ねるほど、その場により強い「自分」が存在し、聴衆が自分とのつながりを感じてくれる一体感が生まれる可能性が高まるのです。
反復練習はとても退屈で辛く思えます。しかし、目指すべきは、まさにここです。継続的な努力を伴わないビジョンは、単なる空想に過ぎません。モチベーションが湧くのを待ってはいけません。まずは行動です。モチベーションもスキルの習得も、その後からついてきます。
苦痛に耐え抜く力や粘り強さほど、人間性を高めてくれるものはありません。一方で、苦痛に屈して諦めてしまうことほど、人間性を損なうものもありません。
とはいえ、何の意味もなく苦痛に耐えるのは愚かです。それでは単なるマゾヒストです。ここで語っているのは、そうした目的のない苦痛のことではなく、生産的な苦痛です。成長を促し、強固な土台と人間性を築き上げ、ビジョンの実現へと近づけてくれるような苦痛です。
残念なことに、多くの人が苦痛を避け、時間を浪費しています。特にひどいのは、偉そうなことを言うくせに、その実現のために何をしているか尋ねると、どれほど忙しくて時間がないかを延々と語るような人たちです。「時間がない」と語る人ほど、実際には何もしていません。
逆の言い方をすると、誰もが忙しいのです。
1日は24時間です。1日8時間の睡眠が理想だとすると、1日の残りは16時間です。
1日に何時間働きますか?これも8時間と仮定しましょう。すると、残りは8時間になります。
毎日の通勤時間はどれくらいですか?米国の平均通勤時間は片道30分弱ですが、往復で1時間半とすると、残りは6時間半になります。
食事の時間や家族と過ごす時間などを差し引くと、残りの時間は1~2時間位かもしれません。それでも、目標に向かって努力するための時間が1日1時間残ります。
1日1時間という時間がどれほど大きな力を持つか想像がつきますか?
もし小説を書きたいなら、毎日1時間机に向かい、たった1ページ書くことで1年後には365ページの原稿が出来上がります。それはすでに立派な1冊の本です。自転車に乗った場合は、たとえ適度なペースで週に5日乗るだけでも、1年間でアメリカを横断するほどの距離を走破できるのです。
毎日スマホを2時間も3時間も眺めていては、貴重な時間は吹き飛んでしまいます。生産的な時間を捻出することは到底できません。テレビを消して、スマホは窓から放り投げて、言い訳は誰かに預けて、仕事に取り掛かるのです。
~ ~ ~ ~ ~
ギアを切り替える:Shift Gears
明確なビジョンを持ち、最大限の努力をしても、すべてがうまく行くわけではありません。
ストア派の哲学者であり、かつては奴隷の身分でもあったエピクテトスは、こう説きました。
「物事が自分の望む通りに起こることを求めてはならない。むしろ、物事があるがままに起こることを望みなさい。そうすれば、あなたは幸せになれるだろう。」
2018年3月、シュワルツェネッガーに最悪の事態が訪れます。
胸に小さな切開を入れて心臓弁を交換する手術が、執刀医が誤って心臓の壁を突き破ってしまったため、本格的な開胸手術へと変わってしまったのです。
もし手術が順調に進んでいれば、手術は簡単に終わり、数日で退院し、その数日後には何事もなかったかのように歩き回れたはずです。数ヶ月後にはブダペストで『ターミネーター:ニュー・フェイト』の撮影が始まる予定でした。手術を終えて1週間休養し、その後ジムに戻って撮影に備える計画でした。
しかし、手術後に目覚めたのは手術開始から16時間後で、その時、喉からチューブが出ていました。医師から少なくとも1週間は入院しなければならず、退院後も少なくとも1ヶ月は重い物を持ち上げてはいけないと告げられます。
医師が状況を説明する間、頭の中では様々な考えや感情が渦巻いていました。
「手術は失敗した。自分は死にかけた。ふざけるな。制作は目前に迫っている。しかし、今はまともに呼吸もできず、介助なしで歩くこともできない。」
しかし、医師たちが部屋を出ていくと、彼は冷静になり、自分に言い聞かせます。
「アーノルド、これは望んでいた状況とは違うかもしれないが、お前は生きている。ここで気持ちを切り替えるんだ。現時点での目標は「ここから退院する」に変わった。さあ、取り組む時間だ」
彼はその後リハビリに全力で取り組み、予定よりも早く退院し、トレーニングにも戻っていったのです。
~ ~ ~ ~ ~
さいごに
シュワルツェネッガーは、若い頃は、100パーセント自分自身の成功のことしか考えておらず、ビジョンといえば個人的な成功や名声、富を追求することに尽きていました。
しかし時が経ち、社会への貢献が人生の大きな部分を占めるようになるにつれ、意識の針は次第に「自分」から「自分たち(他人や社会)」へと向かうようになります。他人を助けることに喜びを感じるようになったのは、それが個人的な目標の達成に役立つからではなく、それ自体が自分の目標となったからです。
シュワルツェネッガーの父親は、息子に「人のためになれ」と繰り返し説いていたため、息子がボディビルダーになった時にはがっかりしたそうです。しかし、子が親の教えを理解するには、さまざまな経験を積み重ねる必要があります。シュワルツェネッガー自身も若い頃はそれを理解していなかったと言います。
そして私たちが先人たちの教えを理解できるようになるためにも、さまざまな経験を積み重ねる必要があります。シュワルツェネッガーは、自らの経験を通してたどり着いた先が、2000年も前の哲学者が説いていたことと知り、心を打たれます。さまざまな経験を通して初めて人生の原則や意味を知るようになるのです。
彼は、書籍の中で哲学者からのいくつかの引用を行っています。同様に現代の哲学的思想家とも言えるライアン・ホリデーやティモシー・フェリスが行ったシュワルツェネッガーへのインタビューがYoutubeで見ることができます。両方とも一通り見ましたが、それぞれで、本に書かれている信条について、言葉のキャッチボールを楽しむことができす。
ご興味がある方は下のリンクからご覧ください。