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360°リーダー:誰でもどこからでもリーダーシップを発揮する

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2025年8月8日
  • 読むのにかかる時間:11 mins read

真のリーダーシップの99%は、組織のトップからではなく、中間層から発揮されています。ポジションに囚われる必要はありません。リーダーシップを発揮するために社長まで昇り詰める必要もありません。どのような状況においても私たちはリーダーシップを発揮することができます。

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はじめに

ガンジー、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア、ウィンストン・チャーチル、、、人類の歴史には、数十万人、いや、数百万人の人たちに影響を与えた偉大なリーダーがいます。

しかし、このようなリーダーと私たちが働く会社のリーダーを重ね合わせることには無理があります。なぜなら、これらの偉人たちのようなリーダーシップの資質を持つ会社のリーダーはほとんどいないからです。むしろ、会社組織の実際においては、真のリーダーシップの99%は、組織のトップからではなく、中間層から発揮されています。

ポジションや立場に囚われる必要はありません。リーダーシップを発揮するために部長や社長まで昇り詰める必要もありません。どのような状況においても私たちはリーダーシップを発揮することができます。

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360°リーダー

今回紹介する書籍は、50年以上に渡りリーダーシップについて研究してきたリーダーシップの権威であるジョン・C・マクスウェルの著書『The 360°Leader(邦訳)360°リーダー』です。

以前書いた記事『できない上司を管理する方法How to manage bad boss』で、マクスウェルの書籍『How to Lead When Your Boss Can’t or Won’t(邦訳)上司にリーダーシップがない場合、どうリードするか?』を紹介しましたが、実は今回紹介する著書は、その元となった本です。

そのため、2冊とも基本的なコンセプトは同じです。どちらもやる気や能力のないダメ上司や、仕事をしている雰囲気だけ醸し出すフリ上司の下でいかに働くかを書いています。残念ながらどちらの本も日本語版は出ていないようです。

マクスウェルによれば、私たちに必要なのは「セルフリーダーシップ(self-leadership)」、つまり自分自身を導く力です。これがすべての基本になります。
そして、「360°リーダー」となり、全方向に対してリーダーシップを体現するのです。そうすることで、組織の頂点に立たなくても、誰もがどこにいてもリーダーシップを発揮できるようになります。組織の上の人間に対して、横の人間に対して、そして下の人間に対して導く方法を学び、実践できるようになるのです。

 

チームのメンバーをうまく率いていても、他部門の人たちとは疎遠になっている人がいます。
上司と良好な関係を築くのが得意でも、下の人たちには全く信頼されない人もいます。
誰とでも仲良くできるのに、仕事が全然終わらない人もいます。
逆に、仕事のスピードはものすごく早いのに、他の人たちとうまく付き合えない人もいます。

しかし、360°リーダーは違います。360°リーダーだけが、組織のあらゆるレベルの人に影響を与えます。彼らは他人を助けることで、自分自身も助けるのです。

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中間管理職の神話

ジョン・C・マクスウェルは本書の第1章で、リーダーシップに関する7つの神話を紹介しています。これらの神話は、会社の従業員、特に中間管理職が自分自身をリーダーとして認識することを阻む広く信じられている考え方です。簡単にその7つの神話を説明しましょう。

1. ポジションの神話 The Position Myth ~「トップにいなければリーダーシップを発揮できない」

多くの人は、リーダーシップはトップの座にたどり着いて初めて得るものと考えています。マクスウェルは、リーダーシップとは地位ではなく影響力であると反論します。リーダーシップを発揮するために肩書きは必要ありません。リーダーシップとは、地位ではなく、人との関係、成果、そして人からの信頼を通して発揮するものです。

2. 到達の神話 The Destination Myth ~「トップに立ったら、リーダーシップを学べる」

多くの人は、高い地位にたどり着いてから、リーダーシップのスキルを身につけようとします。これは完全に誤っています。私たちは、今いる場所で優れたリーダーシップを発揮する必要があります。リーダーシップは、目的地ではなく旅路です。旅の途中で身につけなければならないのです。

3. 影響力の神話 The Influence Myth ~「自分がトップについたら、人はついてくるだろう」

地位があるから、人によい影響を与えられるわけではありません。人がリーダーに従うのは、肩書きではなく、人格や信条です。

4. 経験不足の神話 The Inexperience Myth ~「トップに立てば、すべてをコントロールできる」

トップに立つことで完全なコントロールが得られると考える人がいます。しかし、それは間違っています。トップリーダーは、外部からのプレッシャーや数多くの制約を受けています。どんなレベルの人であっても、それぞれの権限の内側で仕事をするのです。

5. 自由の神話 The Freedom Myth ~「トップに立てば、制約はなくなる」

リーダーは制約から解放されることではありません。地位が上がれば上がるほど、成果への責任と説明責任は大きくなります。すべてが自由になることはありません。多くの人たちから頼られるため、むしろ自由が制限される方が多いのです。

6. 潜在能力の神話 The Potential Myth ~「トップにいなければ、自分の潜在能力を発揮できない」

マクスウェルは、人はどこにいてもそれぞれの潜在能力を発揮できると主張しています。リーダーシップを発揮し、自分の強みと影響力を活かして変化をもたらすことができます。

7. 「全か無か」の神話 The All-or-Nothing Myth ~「トップに立てないなら、リーダーシップを発揮しない」

これは敗者の考え方です。自分がリーダーになれないなら、リーダーシップを追求する意味はないと考える人たちです。肩書きに関わらず、自分がいる場所でリーダーシップを発揮するのです。リーダーシップとは、地位ではなく、他人への影響力であり、人の心を動かす力だからです。

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上向きのリーダーシップ「Lead-up」

次に、中間管理職がどのように上位者に影響を与えることができるかを説明しましょう。
なお、この「上向きのリーダーシップ」については、以前の記事『できない上司を管理する方法(後編)How to manage bad boss』でもより詳しく書きましたので、そちらもご覧ください。

1.他人を導く前に、自分自身をリードする

規律と責任、主体性を持ち、感情をコントロールしましょう。信頼と誠実さを示すことで、人への影響力を持つことができます。

2.上司の負担を軽くする

例えどんな上司であろうとも、重荷を抱えています。上司の負担になるのではなく、上司が会社の目標を達成するのを支援するため、率先して行動し、上司の負担を軽減しましょう。

.他人がやらないことを進んで行う

与えられた業務にとどまらず、困難な任務に進んで取り組み、期待以上の成果を出しましょう。

4.上司と良好な関係を築く

上司の仕事のスタイルや、コミュニケーションの好みを理解しましょう。そのスタイルに反発するのではなく、合わせるのです。上司との間にラポールを築くことで、連携と信頼性が高まります。

5.リーダーの時間を割くのを最小限にする

どんな上司であれ、部下が思うほど時間の余裕はありません。準備万端で臨み、無為に時間を奪わないようにしましょう。また、問題点だけでなく、解決策も提示しましょう。

6.押すタイミングと引くタイミングを見定める

上司の業務やスケジュール、気分を読み取りましょう。業務を押し進めるためには、時には待ったり引き下がったりする方が得策な場合もあります。忍耐や戦略的な考え方も必要です。冷静に対処しましょう。

7.頼れる存在になる

最も重要な時に、上司が頼りにする人物になりましょう。助けを求められる時のために、準備しておきましょう。

8.今日の自分よりも明日の自分を良くする

影響力を拡大するために、日々学び、スキルと人格の両面において、自分自身を成長させましょう。フィードバックを求め、それに基づいて行動しましょう。あなたの成長は、上司、部下、チーム、会社、すべてにとって有益です。

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横向きのリーダーシップ「Lead-across」

次に、中間管理職がどのようにして同レベルの同僚たちに影響を与えることができるか、横断的なリーダーシップについて説明しましょう。
マクスウェルは、同僚間の影響力は、協働、信頼、そして無私無欲を通して築かれると強調しています。360°リーダーは、同僚と競争したり、操作したりするのではなく、同僚をサポートし、友好関係を築いて育みます。

1.リーダーシップのループを築く

同じレベルの同僚間の影響力は、協力し、互いに貢献しあうことから生まれます。思いやり、学び、感謝を、言葉と態度で表現し、関係性に投資して、同僚から尊敬を得ましょう。

2.競争より協調する

同僚を出し抜こうとするよりも、強みを補完しあい、成功を支援することに焦点を当てることで、大きな影響力を獲得できます。同僚と比較したり競争したりする罠にはまらないようにしましょう。

3.友人になる

同僚間のリーダーシップは、友情の上に成り立ちます。共感、支援、そして思いやりを示し、仕事上のつながりだけでなく、有意義な人間関係に投資しましょう。

4.社内政治を避ける

影響力は、マウントを取ることや、えこひいきすることではなく、誠実さによって獲得すべきです。権力争いを仕掛けたり、自己利益のために他人を利用したり裏切ったりしてはいけません。

5.影響力の輪を広げる

より幅広い同僚たちとのコラボレーションの機会を探求し、直属のチームや部署を超えて貢献しましょう。組織全体に価値を提供すればするほど、影響力は増大します。

6.最善のアイデアを採用する

同僚との関係においては、自分の功績やエゴではなく、お互いの結果に焦点を当てるべきです。役職や部署に関わらず、支援や助言を提供しましょう。優れたリーダーは、個人の評価よりもチームの成功を重視します。これにより、イノベーション、相互尊重、そして組織内の信頼が育まれます。

7.完璧なふりをしない

完璧である必要はありません。ありのままの自分でいればよいのです。自分自身であることで、つながりが深まります。
自分の過ちや成長の必要性を認めましょう。同僚に対して弱みを隠す必要はありません。人は、無敵に見せようとするリーダーではなく、信頼でき誠実で近寄りやすいリーダーについていきたいと思うものです。

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下向きのリーダーシップ「Lead-down」

マクスウェルは、リーダーシップとは命令と統制ではなく、他人に奉仕し、育成し、力を与えることだと教えています。360°リーダーは、常に周囲の人たちと共にあり、人を信じ、成長を助け、それぞれの強みを活かし、卓越性の模範となることで、意欲的なチームを築き上げます。

1.廊下をゆっくり歩く

廊下をゆっくり歩くとは、実際に通路をゆっくり歩くことではありません。部下との関係性の比喩です。つまり、自分を部下から近づきやすくしておくのです。それだけでなく、自ら部下の存在を常に意識し、意識的にチームメンバーと時間を過ごし、彼らの仕事ぶりを観察し、耳を傾けるのです。そうすることで、信頼、士気、忠誠心が育まれます。

2.すべての部下を「10点」として見る

優れたリーダーは、メンバーを批判したり支配したりするのではなく、力を与え、育成します。誰もが価値と可能性を持っていると信じ、長所を見出します。これにより、人はその期待に応えるようとし、自信と自尊心を高め、組織にポジティブなチーム文化が築かれます。

3.チームメンバーひとりひとりを人として育成する

リーダーは、部下から仕事上のパフォーマンスを引き出すだけでなく、人としての成長にも投資すべきです。マクスウェルは、メンタリング、コーチング、そして人の夢や目標の実現の支援を重視しています。人は、自分を個人的に気にかけてくれるリーダーに忠誠を誓います。

4.人をそれぞれの強みゾーンに配置する

大原則は、部下の役割を、それぞれの才能と強みに一致させることです。時々、これと全く逆のことを行うリーダーがいますが、リーダーとして失格です。
人それぞれの強みを生かすことは、エンゲージメント、生産性、そして満足度を高めます。優れたリーダーは、チーム内で人材スカウトのような役割を果たすのです。

5.望ましい行動のロールモデルになる

チームのメンバーが従うような模範となってください。自らが実行していないことを、他人に要求してはいけません。
誠実さ、卓越性、責任感、仕事への向き合い方など、リーダーとしての模範を示すことで、信頼性と影響力が高まります。リーダーシップは教えられるものではなく、身につくものです。人は見たものを真似するのです。

6.ビジョンの伝達

チームの仕事の背後にある「なぜ」を理解できるように支援してください。個々の役割が、より大きな目的とどのように結びついているかを示してください。人はビジョンを自分のものとして捉えられれば、目的意識を持って働くようになります。

パーパスやビジョンは継続的に伝える必要があります。なぜなら、パーパスやビジョンを入れた容器の下には小さな穴が開いていて、そこから少しずつ漏れていくからです。繰り返しビジョンを示し、容器に継ぎ足していかないと、容器は空っぽになり、次第に誰も気に留めなくなります。

7. 成果に対する報酬

期待に応え、あるいは期待を上回る成果を上げた従業員を評価するようにしてください。制度上、昇給やボーナスを与えることが難しければ、昇進や、簡潔な感謝の言葉でも十分です。

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さいごに

以上、主に中間管理職の立場から、どのようにして、組織の全方向へのリーダーシップ、つまり、360°リーダーを発揮していくか、「上方向のリーダーシップ」、「横方向のリーダーシップ」、「下方向のリーダーシップ」に分けてポイントをまとめました。

これが全てできるようであれば、正常な会社なら、あなたは社内から信頼を得て、より大きな権限を与えられるでしょう。
ただし、それを期待してはいけません。
リーダーシップとは自分がやるべきことをやることです。自分がコントロールできない何かを期待することではなく、自分がコントロールできることを確実に実行することです。

一方で、実際には多くの中間管理職が上からの圧力と下からのプレッシャーの板挟みになり苦しんでいます。もし、ここで書いたようなことでさえ、組織や上司に実行をことごとく妨害されるようであれば、その時は感情を会社から切り離して、立ち去る準備を進めましょう。

また、以前の記事にも書きましたが、この本はトップリーダーに向けて書かれた本ではありません。
つまり、トップリーダーが部下に示して「トップは大変なんだ。頑張らないといけないのは中間層にいる君たちだよ」と言う根拠を与えるための本ではなく、そのような経営者を正当化する本でもありません。経営者には、より高い責任と権限の遂行が求められます。それを肝に銘じなければなりません。

最後に、繰り返しになりますが、組織のどの階層にいようとも、私たちは誰でもリーダーシップを発揮できます。また、どの階層にいようとも、他人がリーダーシップを発揮するのを助けることができます。

真のリーダーは1人よりも2人、2人よりも3人が効果的です。
真のリーダーシップは伝染します。できるだけ多くのリーダーを育てましょう。中間層の優れたリーダーは、将来の優れたリーダーを育成します。組織にはあらゆるレベルでのリーダーが必要です。


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