You are currently viewing なぜ私たちは同じ文句を繰り返すのか?Psychology of complaining

なぜ私たちは同じ文句を繰り返すのか?Psychology of complaining

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年3月21日
  • Reading time:7 mins read

私たちは毎日のように誰かの文句を言います。実は文句にはメリットがあります。ストレス発散、仲間意識の強化、価値観の共有などです。一方で、数多くのデメリットもあります。文句を言うことが目的になっていて、背景にある問題を解決しようとしていません。そのため、創造的な思考や行動につながらず成長できないだけでなく、常に文句を言うことでネガティブな思考を強化してしまいます。

~ ~ ~ ~ ~

私たちはなぜ文句を言うのか?

私たちは皆、職場の上司や同僚、会社などに対して文句をならべますね。職場のみならず、学校、社会、政府、家族、親戚、友だち、近所の人、その他様々な人たちに対して愚痴をならべます。
文句の対象は人に限りません。暑すぎる天気や寒すぎる天気、長い登り坂、使いにくい道具などに対してさえ文句を言います。文句を並べながらテレビを眺めていることも少なくありません。
私たちはいったい1日で何度文句を口にしているでしょうか?
文句を言わない日の方が圧倒的に少ないのではないでしょうか?

文句とは何らかの問題があることを他人に伝える行為です。そして、不平や不満を言葉にして表現する行為でもあります。
多くの場合、私たちは同じような境遇にある人たちや同じグループの人たちに文句を語ります。ソーシャルメディアで文句を共有することも少なくありませんね。
一方で、不思議なことに文句の矛先である人たちに直接文句を語ることはあまり多くありません。本人に直接話せないことを、別の人に文句として話すのです。

~ ~ ~ ~ ~

文句のメリット

なぜ私たちはこれほどまでに文句を口にするのでしょうか?
文句や愚痴はコミュニケーションの一形態で、良い面と悪い面があります。まず、文句の良い面から見ていきましょう。

1.感情をコントロールする

私たちは自分の感情をコントロールするために愚痴をこぼします。
自分の感情を吐き出すことで、ストレスを発散したり、フラストレーションを和らげる効果があるからです。
ある人の言動にイライラしたり、仕事でストレスを抱えたり、感情がネガティブになっている時に、愚痴や不平をこぼして、嫌な感情を吐き出すことで、何となくイライラが収まったり、心に溜まっていたモヤモヤが消え、すっきりした気分になるのです。

2.人とのつながりを強化する

他人と不満を共有することで、その人たちの関心を引いたり、結びつきを強めることができます。人から共感を得て「そうだよねー」とか「あるある」などと言ってもらえたり、自分が認められたと感じることができ、満足感が得られます。
つまり、私たちの文句や不満は、単にうっぷんを晴らすことだけにとどまらず、周囲の人たちとの関係を築く重要な手段でもあるのです。
私たちは、肯定的なものも否定的なものも含めて、自分の感情を周囲の人たちや大切な人に話します。特に、自分の意見に同意してくれそうな人たちに愚痴をこぼすと、慰めや同情の言葉をかけてくれたり、自分が正しいと強く認めてくれたり、心から共感してくれたりします。文句は、悪い感情を良い感情に置き換えてくれるだけでなく、仲間意識や連帯感を強化するのです。

3.自分の価値観や道徳観を伝え、広める役割を果たす

不満や文句は、自分が何者であるかを確認し、自己意識を強化します。そして、自分の主張や立場、価値観や道徳観をアピールしたり、世の中に広める目的も持っています。

不満や文句を発したり、噂話をすることで、私たちはその背景にある自分の価値観や道徳観を多くの人たちに伝えようとします。何が正しくて何が間違っているかという感覚を共有しようとして、それによって少なくともいくらかは、職場や自分や他人の人生を自分が正しいと思う方向へ導こうとするのです。
それを多くの人たちが行うことで、グループ全体あるいは社会全体として、ある種の道徳観が維持されたり、広まったり、変化する働きをするのです。

私たちが直接接することができる人の数には限界があります。しかし、人の文句や噂話を聞くことで、より多くの人たちの動向や考えを知ることができます。不満や噂話は、より多くの人たちの評判を把握することを可能にすると共に、その逆に、直接人とかかわることなく、より多くの人たちに自分の考えを広める役割も果たします。

ある意味、文句や不満は、警察官であり、教師であり、宣教師なのです。人の文句や不満を互いに言い合って、自分が正しいと思う倫理や秩序を保とうとします。文句や不満が共有されなければ、世の中は混沌とした無知に支配されてしまいます。

4.文句は、気持ちがよくて、リスクが少なくて、簡単だから

文句は多くの場合、物事の解決にはつながりません。しかし、文句は、気持ちがよくて、リスクが少なくて、簡単です。
ほとんど誰でもできます。スキルはいりません。小さな子供たちでさえもできます。そして、運が良ければ、多少は自分の望みがかなうこともあるかもしれません。

~ ~ ~ ~ ~

文句のデメリット

以上のように、適度な文句は前向きな場合もあります。しかし、文句を言うのは、気持ちよく、リスクがなく、簡単な一方で、結果が出にくい戦略でもあります。ほとんどの場合、文句を言うだけで、事態を改善するための行動が伴わないからです。

次に、文句を言うことの悪い面を見ていきましょう。

1.生産的でなく、否定的な思考を強化し、行動力を下げる

文句がもたらす良い気分や、ガス抜き効果は短期的で、長期的、永続的なものではありません。
さらに、過度な文句は、根本的な問題解決から自分を遠ざけます。自ら行動しようとする動機を下げ、同じ愚痴を繰り返すだけになります。不平や不満を言うことが癖や習慣になり、物事をよくする方法を考えて実行しようとするよりも、文句を言って気を晴らしておくという思考ループを強化してしまいます。前に進むどころか、そのネガティブな感情が人生の他の領域にも波及してしまい、つねに不機嫌だったり、自分のしていることへの満足感が低下し、幸福感が低く、自尊心も低くなるのです。

文句は非生産的な活動で、明日もまた、同じことを、同じように、同じ人たちに、そして自分自身にも、繰り返し言い続けるだけなのです。

2.当事者に文句を言わないため、解決に向かわない

不満や愚痴それ自体が何も解決しないもう1つの理由は、そもそも、その文句の矛先である当事者に対して文句を言わないからです。問題を解決できる本人に文句を言わないのですから、解決できるわけがありません。

心理学者のガイ・ウィンチ(Guy Winch)は、次のような調査を紹介しています。(1)
調査によると、買った商品になにか問題があっても、消費者の95%は製造元や販売先に文句を言いません。クレームをするのは、時間がかかり面倒だからです。しかし、その一方で、その文句を他人には話します。だいたい8人から16人と文句を共有するそうです。クレームするより、そんな大勢の人に文句を言う方が、はるかに時間がかかるにもかかわらずです。

当事者に直接文句を言えば、事態が改善する可能性があるのに、不思議なことに、不満のきっかけとなった人物に直接不満を言うことはほとんどなく、友人や家族に不満を言います。先ほどメリットで紹介したように、文句を言うことでガス抜きしたり、共感を求めることを目的としていて、問題の根本解決を目的としていないからです。

3.人から嫌がられたり、距離を置かれるようになる

多少の文句は悪いことではなく、感情のはけ口や人間関係を築く上で効果的でさえありますが、いつも不満ばかり口にしていると、周囲からうんざりされたり、否定的な人間だと思われたりして、聞いている人に不快感を与え、避けられるようになります。

みなさんのまわりにはそのような人はいませんか?
私自身の周りにも文句ばかり並べる人がいますが、必要以上にかかわらないようにしています。また同じ文句を毎回繰り返すだけの飲み会なども避けるようにしていますね。

文句を言うことで注目を集めようとする人たちさえいます。自分がいかに他の人よりひどい目に遭っているかを伝えたくて仕方がないのです。さらには、文句を言いたいだけで、それを解決しようとアドバイスする人に聞く耳を持たない人もいます。そのような人たちは「help rejecting complainers(文句を言うが、助けは拒否する人たち)」と呼ばれます。(2)

4.ネガティブな人たちを吸い寄せる

愚痴や泣き言ばかり言っている人は、生産的で前向きに人たちから一緒にいたいとは思われず、そのような人たちを遠ざけます。反対に、同じような人たちはひきつけます。類は友を呼ぶですね。文句を言う目的のためだけに徒党を組んだりもします。

5.自己を顧みたり、創造的・建設的な考え方ができず成長できない

他人を批判したり、噂話をしたりするのは、その人たちが間違っていることを他の人たちにも広めたいと考えるからです。実は良い悪いの話ではなく、単に考え方の違いだけである場合もありますが、人それぞれ考えが違うことを認めることができません。また、自分の立場を守るために、本当は悪くない人たちの悪口を言うこともありますね。

私たちは、意識的であろうとなかろうと、他人には欠点や問題があり、逆に自分は正しく、欠点がないと感じようとします。
例えば、上司や政府の決断に対して「馬鹿だな~、そんなの無駄なだけだよ」と批判し、自分の方が賢いように振る舞うのですが、自分がもしその人たちと同じ立場になった場合、その人たち以上に優れた決断ができるかどうかははなはだ疑問です。

~ ~ ~ ~ ~

文句を生産的なものに変えるためには

以上、今回は、人がなぜ文句を言うのか、文句の良い面と悪い面を紹介しました。

文句を生産的なものに変えるためには、まず第一に、文句を言っている自分に気が付くようにすることが重要です。みなさんも意識して過ごしてみてください。すぐに文句を言っている自分に気付くはずです。
そして、文句を言っている自分に気付いたら、
「なぜ自分はその文句を言っているのか」、文句を言っている目的や解決したい問題を自分で考えてみるのです。それが分かれば、それを達成するための行動の糸口が見えてくるかもしれません。

~ ~ ~ ~ ~

最後に

本文の中で、ほとんどの不満は、その不満のきっかけとなった人物に直接言うことがないと説明しましたが、実は、私たちは直接本人に文句を言うことがないわけではありません。

例えば、夫婦がお互いに口うるさく言うのは、本当に相手に行動を変えて欲しいと期待しているからです。家事を手伝ってほしい、節約してほしい、使ったティッシュをテーブルの上に置いておくのはやめてほしい、などなど不満は尽きません。しかし、直接相手に面と向かって文句を言っていても、思うように相手が変わってくれない場合も多いものです。

先ほど、文句を言うことにはスキルがいらず、小さな子供たちでもできると書きました。しかしそのような文句は「非生産的な文句」です。「非生産的な文句」は誰でも言えるのですが、「生産的な文句」を言える人は限られます。

次回は、文句を生産的なものに変えるためにはどうすればよいのか、どうすれば「生産的な文句」が言えるようになるのか、さらに見ていきます。

~ ~ ~ ~ ~

参考文献
(1) Guy Winch, “The Squeaky Wheel: Complaining the Right Way to Get Results, Improve Your Relationships, and Enhance Self-Esteem”, 2011.
(2) Robin M. Kowalski, “Whining, Griping, and Complaining: Positivity in the Negativity“, Journal of clinical pshychology, Vol.58(9), 1023-1035, 2002.
(3) Peter Bregman, “The Next Time You Want to Complain at Work, Do This Instead”, Harvard Business Review, 2018/5.

(4) Thomas Henricks, “Why We Complain, Grumbling is a way of building relationships with others”, Psychology Today, 2022/8.
(5) William Berry, “The Psychology of Complaining, With complaining being viewed so negatively, why is it prevalent?”, Psychology Today, 2021/4.

コメントを残す

CAPTCHA