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書籍紹介:不満を上手に伝える方法 ~ 非生産的な文句を生産的な文句に変えるには

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年9月30日
  • Reading time:13 mins read

相手に不満があり、それを直してもらいたいなら、まず、リラックスさせるポジティブな言葉で始めて相手の警戒心や防御の姿勢を解き、最後は、改善の行動の動機付けとなるようなポジティブな言葉で締めくくりましょう。不満は、サンドイッチのように、ポジティブな言葉の間に挟んで伝えるのです。

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「非生産的な文句」と「生産的な文句」

前回、なぜ私たちは同じ文句を繰り返すのか、そのメカニズムと、文句を言うことの良い面、悪い面を紹介しました。

その中で、文句を言うこと自体は、スキルがいらず、小さな子供でもできると書きました。しかしそのような誰にでもできる文句は「非生産的な文句」です。

非生産的な文句は、自分では解決できないことを人のせいにしたり、不快な状況を外的要因のせいにしたり、失敗の原因を他人に押し付けて責めたりして、自分を正当化して、ストレスを発散したり、周囲の人たちから同情や共感を得るためだけの文句です。
その背景にあるのは、自分のどうしようもなさであり、やるせなさであり、無力感であり、面倒なことはしたくないという気持ちです。

一方で「生産的な文句」は、文句によって、問題の解決につなげようとするものです。

文句はこの「非生産的な文句」と「生産的な文句」の二極化をたどります。

ストレス発散やまわりの人たちに同情してもらうだけの「非生産的な文句」は、問題解決力の低下や自尊心の低下を招き、長く渡り繰り返し続けると、その思考ループから抜け出すことが難しくなります。

一方で生産的な文句は、レジリエンスと、考える力が身に付き、改善のループにつながり、繰り返すにつれて、解決力が強化されていきます。よりよい人間関係を築き、自尊心を高め、幸福感をもたらします。

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文句を口にできない人もいる

文句ばかり口にする人がいる一方で、他方では、不平や不満で爆発しそうなのに、文句を口にできない人たちもいます(タイプDパーソナリティと言います)。

誰ともトラブルを起こしたくない、文句ばかり言っている人間と思われたくない、文句を口にして否定されたり、倍になって言い返されて物事がうまくいかなくなると恐れて、不満を口にすることをためらうのです。

文句を言うことが悪いわけではありません。むしろ心身の健全さを保つためには、ある程度の文句を口にしてストレスのはけ口にすることは不可欠です。一切愚痴も文句を言わないようにすると、精神的に病んでしまいます。

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「非生産的な文句」を「生産的な文句」に変えるために必要なこと

文句がうまくいかない理由は、文句を生産的に伝える方法を知らないからです。非生産的な文句のループから抜け出し、文句や不満を効果的に人に伝えるにはどうすればよいのか紹介します。

1.無力感は一時的なものであり、永続的なものではないと理解する

何事にも、必ず解決策や何らかの改善の方法があります。自分の立場がいかに低くても、たとえ相手が上司であっても、自分よりもえらい人であっても、途方もない状況であるように感じても、私たちには自分が思っている以上の力があります。

2.ある程度以上の努力や忍耐やスキルが必要だと理解する

残念ながら、文句や不満の原因となっている問題を改善したり解決することは、文句をならべることに比べると簡単ではありません。
悲観的な思考から前向きな思考へと物事の認識の仕方を変えるのも簡単ではなく、努力と忍耐とスキルが必要です。

ただし、裏を返せば、不足しているスキルを習得すれば、うまく対応できるようになるとも言えます。スキルを身に付けて、物事を自分でコントロールできると理解することで、無力感から抜け出す第一歩を踏み出すことができます。

3.感情的にならずに感情を伝える

相手に不満をぶつけて、会話が口論に発展しても、私たちが望むような結果が得られることはまずありません。
文句を効果的に相手に伝えるために、できるだけ柔らかくソフトに話し始めましょう。文句があるということは、怒りや不満などの強い感情を伴っている場合が多いはずですが、その感情を表面に出すことを控えましょう。自分がどう感じているのか、自分の感情を、可能な限り感情的にならずに伝えるのです。

感情的になって文句を伝えることには様々なデメリットがあり、メリットはほとんどありません。ほとんどの人がこれを身をもって体験しているはずです。物事が良い方向に向かわないだけでなく、さらに悪い方向に向かってしまうこともあります。

また、ある種の文句は、伝えるべきタイミングが重要です。感情を抑えて、よいタイミングが来るまで口にするのを延ばしておくことも必要です。それまで自分の中で文句を整理しておくことも必要です。

私たちは、よいタイミングが来るのを待つどころか、感情に任せて、最悪のタイミングで文句を口にしてしまうことも少なくありません。感情的になって文句を口にする前に、そのような自分に気づいて、一呼吸置く習慣を身に付けることも必要でしょう。

4.具体的な目的を持つ

私たちは、現実と理想に乖離があるから文句を言います。

生産的な文句は、他人の悪口ではなく、理想に向けた解決策の提案です。
文句を生産的なものに変えるためには、まず初めに、文句がある自分に気付くこと、そして「なぜ自分にはその文句があるのか」、文句の背景や目的、解決したい問題を考えてみることです。

会社や他人に文句があるのであれば、自分が本当は何を望んでいるのかが分かるまで、口にしないことです。生産的に文句を伝えられるようになるためには、文句を口にする前に、文句を伝えることでその人から何を得ようとするのか、何を達成したいのか、その目的を考えて明らかにしておくのです。

目的を明確にすることには2つのメリットがあります。
第1に、感情を落ち着かせることができます。何を達成したいかを考えれば考えるほど、雑念が少なくなり冷静になれます。
第2に、相手が自分を助けやすくなります。自分が何を求めているのかが分からなければ、相手もどうすればよいのか分かりません。相手に伝える前に、
自分が何を望んでいるのか、はっきりさせておき、相手にどう伝えるかまで考えておくのです。

5.相手を非難せず、具体的な文句を伝える

「君はいつも〇〇だよね」とか「あなたは絶対に□□しないでしょ」などの極端な文句や具体性のない文句、「あなたは△△ができない人だから」などの人間性の否定は、非生産的な文句であるだけでなく、破壊的な文句です。相手は反論し攻撃し返す以外に、どうすればよいか分かりません。
相手を非難してはいけません。「ここをこうしてくれませんか」など、具体的なお願いをするのです。

6.小さなことで簡単なものからトライしてみる

1度にたくさんの文句を言ってはいけません。
1度に1つの文句に限定します。1つの文句であっても、漠然としたものであってはならず、小さくても具体的である必要があります。
1つの文句だけに絞ろうと考えてみると、具体的な解決策が浮かんでくることさえあります。

非生産的な負の文句のループに陥ってしまっている人たちにとって、小さな1つの成功でさえ、自分にもできるという自信を取り戻すきっかけとなり、より大きなチャレンジに進むことができます。

先ほど紹介した文句を口にできない人に関しても、1つの不満を口をすることから始めることで、自信を高め、次のステップに進むことができます。

前回、買った商品になにか問題があっても、消費者の95%は製造元や販売先に文句を言わないと紹介しました。
しかし、例えば、とりあえずカスタマーサービスなどの問い合わせ先を調べてみるなど、簡単なステップでも実際に1つ行動してみることが大切で、そうすることで、ひょっとすると次のステップが見えてくるかもしれません。

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不満サンドイッチ:complaint sandwich

心理学者のガイ・ウィンチ(Guy Winch)は、その著書「The Squeaky Wheel: Complaining the Right Way to Get Results, Improve Your Relationships, and Enhance(邦題)NYの人気セラピストが教える不満を上手に伝える方法」の中で、「不満サンドイッチ(クレームサンドイッチ):complaint sandwich」という不満を効果的に伝えるための方法を提案しています。

不満サンドイッチ(クレームサンドイッチ)とは、①サンドイッチ(ハンバーガーと考えても良いです)の上側のパン、②真ん中の肉、③下側のパンになぞらえた、生産的に文句を伝えるための3つのステップです。

① ステップ1は、サンドイッチの上側のパンで、相手の関心を引き、相手の耳を開き、打ち解けさせて、耳を自分に傾けてもらうためのステップです。
② ステップ2は、真ん中に挟まれた肉で、私たちの実際の不満であり文句です。
③ ステップ3は、サンドイッチの下側のパンで、相手が私たちの不満を消化し、行動に移すのを助ける役割を果たします。

以下にその3つのステップを紹介していきます。
よくある人間関係の不満である「パートナーがスマホばかりいじっていて、会話の最中もスマホを見ている」ことを例にして、このサンドイッチの3つのステップをどのように使うのか見ていきましょう。

なお、私は本書も英語版を読んでいます。楽天ではもう販売していないようですが、アマゾンでは販売しています。洋書をご希望の方は下のアマゾンリンクからどうぞ。

ステップ1:できるだけポジティブに始める

私たちは他人から不満を聞くと攻撃されているように感じます。
なぜなら、自分が何か悪いことをしたかのように聞こえるからです。同じように、自分の不満も相手には攻撃のように聞こえます。
攻撃されているように感じると、私たちは防御の体制を取るか、反撃体制を取ろうとします。

相手の警戒心を解き、私たちの不満に耳を傾けてもらうためには、ポジティブかつ柔らかな表現から始める必要があります。

例えば、夫婦間であれば「僕たちは、お互いにストレスの多い仕事をしてるけど、夜一緒に過ごすと、リラックスできていいね」と言うのです。
ポジティブなことを最初に伝えると、相手が身構えなくなり、次の言葉をリラックスして聞いてくれるようになります。

逆に、怒りに任せて切り出すと、カスタマーセンターのプロでも身構えてしまうのです。相手に反撃の緊急スクランブルや、次の攻撃への迎撃準備をとらせてはいけません。

ステップ2:できるだけ引き締まった「肉」にする

真ん中の肉、つまり、文句の中身です。
ポジティブな言葉で相手の耳と心を開いたら、次はできるだけシンプルに、はっきりとメッセージを伝えます。ここで私たちが目指すのは、相手に「わかってもらう」ことであり、自分を主張することではありません。そんなことをすれば、相手は圧倒され、怒ったり、黙ったりするだけです。

クレームサンドイッチの「肉」の部分は、できるだけ薄く、身の締まったものにする必要があります。

1つの出来事のみにフォーカスし、何が起こったのかをできるだけシンプルに、中立的なトーンで、なぜそれが問題なのかをできるだけソフトに説明します。

例えば「スマホがあなたの息抜きに必要なのは分かっているけど、しきりにチェックするのを目にすると、2人の間に壁が作られているように感じるの」などのように言うことができます。

ステップ3:もういちどポジティブで締めくくる

実際に不満を口にしたら、次は「お願い」です。
最後のステップは、相手が自分の文句を消化するステップで、最後のパンはその消化を助ける役割を果たします。

このステップでは、自分が望むものが何なのかを伝えます。そのためにも、先に書いたように、準備しておく必要があります。
行動を変えてほしいのか?もしそうならどう変えてほしいのか、それを相手に具体的にしておき、それを示す必要があります。

私たちが人に何かをお願いをするときは、ポジティブな表現で伝える必要があります。
そうすることで、相手が、私たちの苦情のサンドイッチを「消化」しやすくなり、お願いを受け入れる動機付けが生まれます。

例えば、「夕食のときと、外で一緒に食事したり、お茶しているときは、スマホをポケットやかばんにしまうと約束してほしい」と言うのです。
さらに、「そうすれば、一緒に質の高い時間を過ごしているような気がして、とても気分が良くなるの」と言って、
問題が解決すれば2人の関係も良くなると伝えましょう。

著者のウィンチは、苦情や文句を2つのポジティブな文で挟むことで、不満サンドイッチを、相手が食べやすく飲み込みやすくなると言います。

真ん中の肉は出来るだけ薄くし締まった肉にして、上下のパンにはできるだけ膨らみを持たせるのです。肯定的な柔らかい言葉で不満を挟みこむことで、あなたが望む結果を得られる可能性が高くなります。

もちろん、この不満サンドイッチは、全ての不満の解決を保証するものではありません。
しかし、相手が批判されている、攻撃されていると感じている限り、相手は私たちを助けようとすることはありません。逆に盾を構えて自分の身を守る行動を取ります。

不満サンドイッチは、欲しいものを手に入れるチャンスを最大化する公式ではあるものの、事前にしっかり考えて計画する必要があります。
そのため、時間をかけて何を話すか考えて用意周到な状態で望み、話し合いをするのに適した時間を確保するようにしましょう。そして、もし、あなたが伝えたいことを伝えることができたり、望む結果を得ることができたら「ありがとう」と気持ちよく感謝の気持ちを伝えましょう。

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さいごに

今回紹介した本の著者ガイ・ウィンチ(Guy Winch)ですが、この本を読むのももちろんよいですが、この方、とてもユーモアがあって、話を聞くのも楽しいです。

下に貼り付けている「Talks at Google」や「TED Talks」などで彼の話を聞くことができますが、特にTalks at Googleでは、途中何度か大笑いしてしまいました。
最後のQ&Aセッションで最初の質問者が「あなたは役者になる訓練を受けたのですか?」と尋ねるほどです。
英語ですが、ご関心があればご覧
下さい。TEDの方は日本語字幕をつけることができます。

 

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参考文献
(1) Guy Winch, “The Squeaky Wheel: Complaining the Right Way to Get Results, Improve Your Relationships, and Enhance Self-Esteem”, 2011.
(2) Guy Winch, “How to Complain So Your Partner Listens : Getting the result you want requires a bit of planning“, Psychology today, 2017/10.
(3) Stephanie Vozza, “Why Complaining May Be Dangerous To Your Health“, Fast company, 2015/12.
(4) Jon Beaty, “A Couple’s Guide to Complaining“, The Gottman Institute

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