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マイノリティにも必要な道徳観 how to prevent moral hypocrisy

  • 投稿カテゴリー:社会が変わる
  • 投稿の最終変更日:2024年1月11日
  • Reading time:10 mins read

多くのマイノリティの人たちが、変化や力を求めて声を上げています。その中には、実際に力を勝ち取ることに成功する人たちがいる一方で、力を握った途端、それまで貫いてきた価値観や理念を捨て、約束していたはずの良いことを成し遂げられなくなる人たちがいます。さらには、権力を手にして、従来の権力者より傲慢に振る舞うことさえあります。

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はじめに

世の中では、多くのマイノリティの人たちが、変化や力を求めて声を上げています。その中には、実際に力を勝ち取ることに成功する人たちがいる一方で、力を握った途端、それまで貫いてきた価値観や理念を捨て、約束していたはずの良いことを成し遂げられなくなる人たちがいます。さらには、権力を手にして、従来の権力者より傲慢に振る舞うことさえあります。

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マイノリティが罪なき人たちを襲う(1)

それはありふれた日常から始まりました。

コロナウイルスの制約から解放された2020年7月のある晩、ニューヨーク州スキッドモア大学芸術学部教授のデイビッド・ピーターソン(David Peterson)は、妻と2人で、サラトガ・スプリングズに夕食に出かけることにしました。
近くのコングレス・パークで開催される警察を支援する集会「バック・ザ・ブルー」もチェックするつもりでした。主催者の「ポジティブで分け隔てない平和的なイベント」というメッセージに興味をそそられたからです。

ご記憶の方も多いかと思いますが、この時期アメリカでは、同年5月に起きたジョージ・フロイド事件を発端として、ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter)の活動が全米に広がり、警察への不信感と不満が高まっていました。

ピーターソン夫妻は20分ほど群衆の端っこに立ち、集会を眺めていました。そのうち、集会参加者とブラック・ライブズ・マターの活動家の間でちょっとしたやり取りが生じ、反対派の1人が携帯電話で2人の写真を撮って、罵声を浴びせました。2人は奇妙に感じましたが、特に気にすることもなく、夕食をとるために会場を後にしました。

翌朝、ピーターソン教授が、日課であるランニングの準備をしながらメールを覗くと、見知らぬ卒業生からメッセージが届いていました。そのメッセージは、2人がソーシャルメディアのターゲットになっていることを知らせるものでした。
その善意のメールには、拡散されている身に覚えのない長い弾劾の言葉、夫妻の写真、勤務先の情報などが添付されていました。

その後数日間、大学の事務局には、同様のテンプレートを用いた数百通ものメールが届きます。
スキッドモア大学の7人の学生は、人種的公正を高めるための15の要求を書いた嘆願書をばらまき、ピーターソン教授の即時解雇を要求しました。教授の教室のドアには、誰かが次のような内容の張り紙をし、授業はボイコットされました。

『進入禁止:このクラスに参加することは、キャンパス全体のピケットラインを越え、デイビッド・ピーターソン教授に対するボイコットを破ることになります。 デビッド・ピーターソンは、女子生徒に対する露骨な性差別、トランスジェンダーや有色人種の全生徒に対する差別があり、ファシスト的イデオロギーを提唱していて、安全ではありません。 もし、このコースを受講し続けるのならば、キャンパスで偏見を広げることに加担しているとみなされます。』

ピーターソン教授は何をしたのでしょうか?
彼がしたのは、妻とともに集会で地元警察官を支持する声に静かに耳を傾けただけでした。

大学長はピーターソン教授の解雇を検討しましたが、学生の告発について2か月にわたって調査した結果、ピーターソン教授はすべての容疑で無罪だと判明しました。

大学新聞「スキッドモア・ニュース」は、ピーターソン教授を中傷する内容の記事を書きましたが、逆に保守系メディアや有力地方紙に取り上げられ、嘘は事実に書き換えられ、世論が彼を全面的に支持するような流れを引き起こし、解雇要求は突然終わりを告げたのです。(2)(3)(4)

しかし、ピーターソン教授には、勝利も、安堵もありませんでした。
この騒動の間に、彼が31年かけて築き上げた人気講座の受講希望者は大幅に落ち込み、あるクラスではゼロになりました。
彼は、生徒たちが将来またクラスに戻ってくることを望みますが、保証できないのは、それまで熱意を維持できるかどうかということです。 彼が今まで情熱を注いできたものは、今や単なる収入源の意味しか持たなくなったのです。

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歴史は繰り返される

残念ながら、今紹介したようなピーターソン教授に似た事例を、私たちもメディアなどで目にします。しかし、これは最近になって始まったことではなく、昔から繰り返されてきたことでもあります。

歴史上の事例を挙げると、ウラジーミル・レーニン(Vladimir Lenin)は、すべてのロシア国民に「平和とパンと土地」を与えるというビジョンを掲げ、労働者の蜂起を指揮しましたが、その結果はどうだったでしょうか?

フランス革命で、マクシミリアン・ロベスピエール(Maximilien Robespierre)は市民を守り、自由、平等、友愛を約束しましたが、恐怖政治で自分と異なる主張を持つ大量の人たちを絞首刑にしました。

私たちは、力を握った反対派や改革派が、それまで主張してきた多様性や信念を放棄し、約束したことを果たさない姿を見てきました。大なり小なり成功した革命を検証してみると、長い年月の犠牲の末に勝ち取った機会を無駄にしたり、信念を自ら汚したりしていることがわかります。

対立は対立を生み、攻撃は攻撃を生みます。
自分が所属するグループが権力を持っていなければ不満を口にし、自分が所属するグループが権力を獲得すれば、相手を打ち負かそうとします。マイノリティは、敵対する主勢力との関係で自分たちを定義してきたので、敵がいない状態では自己を健全に確立することができなくなります。このダイナミクスの結果、「勝利した反逆者」は、少数派であったときに大切にしていた価値観から離れるのです。

力を手にし、勝利に酔いしれた反抗者や改革者たちが、自意識過剰であり続けることの恐ろしさは強烈です。
その力はかつての抑圧された力とは比べ物になりません。自分たちだけの目的を達成しようとして偏った主張をし、自らを非難する他のグループを暴力で攻撃することさえも正当化します。

サンディエゴ州立大学心理学部教授のラドミラ・プリスリン(Radmila Prislin)たちが指摘するように、偽善は権力移動の直後に忍び寄ります。
彼らの実験では、「勝利した反逆者」は、権力を乱用して他のグループを抑圧します。新たな現状を強固なものにしようと、「力を失った権力者」を犠牲にして、自分たちのグループに有利なルールを作り上げます。「勝利した反逆者」は、苦労して勝ち取った権力、地位、承認を失うことへの恐怖から、かつて望んでいた対話を促進するどころか、力づくでも自分たちのやり方を押し付けるしかないと感じ、様々な意見を聞くことを拒絶し、そして自分たちの偽善に気づかなくなっていくのです。(5)(6)(7)(8)

兄弟として共に生きることを学ばなければ、愚か者として共に滅びることになる。
~ マーティン・ルーサー・キング・ジュニア
We must either learn to live together as brothers or we are all going to perish together as fools.
~ Martin Luther King, Jr.

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マイノリティでいるうちに準備する

力の逆転がおきると、「力を失った権力者」たちはむしろ議論に寛容になります。反対に、「勝利した反逆者」たちは意見の相違を歓迎しなくなり、健全性を失います。その前後で「勝利した反逆者」の多様性に対する容認度は50%低くなります。力は視野を狭めるのです。

そのため、私たちは力を手に入れる前に準備しておかなければなりません。

現在、歴史的に抑えられてきた、女性、有色人種、同性愛者などのマイノリティの人たちが、学界、ビジネス界、政界へアクセスを広げ、人種的マイノリティが多数派に近づいてきています。また、ソーシャルメディアを利用して、その他のマイノリティが大きな力を得ることもおきるようになりました。

それはそれで良いことですが、権力をまだ手に入れていない人たちは、権力のシフトが完全でないうちに、権力の行使とそれに伴う責任についての難しい質問を自らに問いかけておく必要があります。
力を得た後、自分たちはどのように振る舞うべきか、力を得る前に考えておくのです。自分たちが経験した抑圧を、権利を剥奪された人たちやその他の人たちに課さないために「責任を持って勝利する」準備をしておくのです。

幼少時代、青年期、そして今までの人生を通して、思い浮かべてみてください。自分と意見が違ったり、対立するグループがあったでしょう。あなたは全体をコントロールできる力を得たとき、そのような対立する人たちを含めて、新しい規範や平等な社会を作ることができますか?

もし地上に平和をもたらしたいのであれば、私たちの忠誠心は、あるグループに対してではなく、世界全体に向けられなければならない。忠誠心は、人種、部族、階級、国家を超え、視点は世界を見つめなければならない。
~ マーティン・ルーサー・キング・ジュニア
If we are to have peace on earth, our loyalties must become ecumenical rather than sectional. Our loyalties must transcend our race, our tribe, our class, and our nation; and this means we must develop a world perspective.
~ Martin Luther King Jr.

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事前に準備すべきこと

そのためには、自分たちの大きな目的を明確にし、常に心の中心においておく必要があります。そうしない限り、力を握った途端に態度を変え、長い間求めてきた平等や正義のためではなく、自分たちのグループの利益を中心にした社会を築こうとするでしょう。

「力を失った権力者」に対して感じるかもしれない反感や、優越感を脇に置くよう、自分自身に挑戦してください。対立関係にある人たちと共通する項目を探してください。自分のグループ内の利害より壮大な世界観を身につけてください。

単に自分たちと同じような外見や考え方の人を受け入れるのではなく、自制心を保ち、多様性を尊重し、相反する価値観を持つ人たちも含めて、すべての人を受け入れるのです。

まとめると、マイノリティが勝利した後、道を誤らないようにするには、次のことに気を付けなければなりません。

  • 権力がいかに自己認識を曇らせるかに注意を払い続ける。
  • 友人、敵、そして中立の観察者などすべての人の意見が依然として重要だと認識する。
  • 自制心を示し、(たとえ彼らがそのような寛大な心を示さなかったとしても)新たに力を失った人たちに共感と慈愛を捧げ、あらゆる方面から自分たちに向けられる誠意ある懐疑論を歓迎し、全体の利益になるように、洗練させ、再構築する。
  • 人間がいかに部族的な閉ざされた特性を持っているかを知り、特に権力移譲の際には、かつて私たちを疑ったり迫害したりした人たちを悪者扱いする衝動にかられるため、より慎重に合理的に行動しなければならない。
  • 力は私たちの視野を狭めさせることを、力を持つ前に認識しておく。
  • 行動に一貫性をもつ。一貫した行動によって新しい規範が生み出されたり、既存の規範の変革がおきる。

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さいごに

冒頭紹介したスキッドモア大学のピーターソン教授は、事件後にこう述べています。

40年前、私が学生だった頃は、今より自由ではなかったが、言論はもっと自由だったかもしれない。
1970年代の大学教授のほとんどは、左派的な主張を支持していた。当時でも不人気な(右派的な)意見を主張するには、討論の準備と度胸が必要だった。しかし今そのために必要なのは、無謀なまでの勇気と、(職を失った後の)財政プランだ。
もはや私は、感情的に抵抗されることなく、キャンパスで主流となったマイノリティに異議を唱えることができるとは思えない。

彼の身に起きた出来事に共感する教員たちからも、「授業中の発言に神経をとがらせるようになり、話すトピックを限定するようになった」とか「もはや学生を怒らせるような発言をすることができない」とか「本当に危険を感じている。ちょっとしたことでも口に出すのが怖い」とか「つねに学生たちから報復されることを恐れている」などのコメントが寄せられました。

私たちは、「勝利した反逆者」であれ、「力を失った権力者」であれ、すべての人の考えが、批評の対象となり、あらゆる種類の議論が奨励されるような場を取り戻さなければなりません。

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書籍の紹介

今回の記事は、アメリカの心理学者で、ジョージメイソン大学の福祉研究所所長のトッド・カシュダン(Todd B. Kashdan)が2022年に書いた書籍「The Art of Insubordination: How to Dissent and Defy Effectively(邦訳)反抗の技術:効果的な反抗の方法」の、主に第7章「Win Responsibly : How to prevent moral hypocrisy if and when you become the new majority」を参考にしました。
なお、現時点で、本書の日本語訳版は発刊されていません。

実は、以前、彼が以前書いた書籍「The Upside of Your Dark Side(邦題)ネガティブな感情が成功を呼ぶ」も紹介しましたが、私はカシュダンの、主流となっている考えに一石を投じるようなスタイルが好きですね。
前回紹介した書籍も安易なポジティブ心理学の潮流に一石を投じるような内容でしたし、今回取り上げた内容も社会的に認められてきているマイノリティの危うい側面に目を向けたものになっています。

社会が変わっていくのは悪いことではありませんが、いったん変わり始めるとその視点でしか物事が見えなくなる、違う視点から見ることが難しくなる人たちが世の中の圧倒的多数を占めています。カシュダンの書籍は、そのような新しい主流とは違う視点を私たちに与えてくれます。

なお、本書「The Art of Insubordination」には、他にも面白い内容が含まれているので、また別の機会に紹介したいと思います。

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参考文献
(1) David Peterson, “They Tried to Cancel Me : A professor recalls the anguish of a false accusation“, Persuasion, 2020/11/25.
(2) Samantha Sasenarine, “(Opinion) The Petersons & ‘Blue Lives Matter’: Students Reveal a Pattern of Racism among Skidmore Faculty and Staff“, The Skidmore News, 2020/8/31.
(3) John Loftus, “A Skidmore Professor Defends His Reputation“, National Review, 2020/9/17.
(4) Zachary Matson, “Skidmore professor passes official look after students call for his ouster“, The Daily Gazette, 2020/9/26.
(5) Radmila Prislin, “Minority Influence: An Agenda for Study of Social Change“, Front. Psychol., 2022, Vol 13, 2022/6/23.
(6) P. Niels Christensen, Radmila Prislin, Elizabeth Jacobs, “Motives for social Influence after social change: Are new majorities power hungry?”, Social Influence, Volume 4, Issue 3, 2009, 2009/1.
(7) Radmila Prislin, Marilynn Brewer, Daniel J. Wilson, “Changing Majority and Minority Positions Within a Group Versus an Aggregate“, Personality and Social Psychology Bulletin, 28(5), 640–647., 2002.
(8) Radmila Prislin, Vanessa Sawicki, Kipling Williams, “New majorities’ abuse of power: Effects of perceived control and social support“, Group Processes & Intergroup Relations, 14(4) 489–504, 2011.

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