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書籍紹介:I’m sorry I broke your company コンサルタントが企業をつぶす

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年11月30日
  • Reading time:9 mins read

コンサルタントは、方法論、モデル、システム、ソリューションを売ることが目的で、企業側も、それらを導入することが目的になっています。しかし、本当の組織の問題は、人と人の関係性やコミュニケーション、相反するゴールにあります。それらの解決に必要なのはツールではなく、人への関心や思いやりです。

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コンサルタントが組織をぐちゃぐちゃにする

今回紹介するのは、「I’m Sorry I Broke Your Company(邦題)申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。 コンサルタントはこうして組織をぐちゃぐちゃにする」という、センセーショナルなタイトルで、いかに経営コンサルタントが機能しないかを大胆に書いたカレン・フェラン(Karen Phelen)、2012年の著書です。いつものように私は英語の原本を読んでいます。

カレン・フェランは、1980年代にデロイト(Deloitte)、1990年代にジェミニ・コンサルティング(Gemini Consulting)で経営コンサルタントとして活躍した後、企業側に立場を変え、ファイザーとジョンソン・エンド・ジョンソンでマネジメントに関わり、その後、2008年に経営コンサルタントに復帰し、2021年には「Act like an Icon」を立ち上げています。

本書は、トロント・グローブ・アンド・メール紙で2013年のビジネス書トップ10に選ばれ、日本でも数ヶ月間に渡ってビジネス書のベストセラーの上位に入りました。

私も、以前の投稿「謙虚なコンサルティング::今後求められるコンサルタントとは?」でコンサルタントを批判しましたが、コンサルタントでありながら、業界を批判するのはとても勇気がいることでしょう。

主流に迎合せず、自分の考えをありのままに表現し、一石を投じる彼女の姿に共感します。大勢の人たちが常識だと考えていること、ステータスの高い人たちが主張することが必ずしも正しいわけではありません。

この本は、コンサルタントの問題点を、私たちに馴染みのある身の回りのものごとに重ね合わせて、分かりやすく示している点でもユニークです。このような、大多数の人たちが見ている(または、そのように見せられている)見方とは違う角度でものごとを捉えようとする姿勢はとても大切です。

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戦略策定のゴールは「計画を作ること」ではなく、「計画を作る過程で学ぶこと」

フェランは、経営コンサルタントの問題の1つは、コンサルタントが企業に戦略計画を「答え」として売り込んだり、計画策定の支援「だけ」をおこなう点にあると言います。

アメリカの元陸軍元帥であり、第34代大統領でもあるドワイト・D・アイゼンハワーの「戦いに備えるとき、いつも計画は役に立たなくなるが、同時に計画が不可欠であることも知る」という言葉があります。

戦略策定のゴールは「計画を作ること」ではなく、「計画を作る過程で学ぶこと」です。

計画という作業をすることで、市場のトレンド、経済的なシナリオ、競合他社の強みと弱み、規制の変化、消費者の声などを学び、それが、企業の意思決定に洞察と知恵を与えます。そして、こうした知恵が、変化に対応し、好機を見極める能力を高めます。
つまり、戦略策定のゴールは計画そのものではなく、企業の自己発見行為であって、戦略立案の価値は、それが誘発する組織的な対話と調整のプロセスにあるべきなのです。計画はそのプロセスの成果物に過ぎません。

計画を立てることで企業は思考を高められるのに、それをコンサルタントに依存して「思考をアウトソーシング」することに問題があります。そして、彼らに提案されるがままに受動的に計画を立ててしまうのです。
その結果、洞察力が高まる代わりに社内に残るのは、75ページのパワーポイント資料です。そして、その資料は何回か目を通した後で見向きもされなくなるか、盲目的に追従して実行されるのです。

計画を立てることで思考が広がる一方で、計画を鵜呑みにして進めることは思考を狭めます。

何週間もかけて自ら考えて分析し、発見を文書化し、結論を導くことから学ぶものと、結論を人に導かれたり、人が書いた報告書を読んで得られるものには大きな違いがあるのです。

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特定のモデルを押し付けられる

コンサルタントの別の問題は、企業が抱える問題の本質を知ることなく、特定のモデルを押し付けて、表面的な対処だけにとどまることです。

この問題は、以前紹介した組織開発に関する著名な研究者エドガー・シャインのレベル1コンサルタントの問題と共通します。

レベル1コンサルタントとは、旧来の診断型・問題解決型のコンサルタントで、クライアントから与えられた相談や内容に基づいて仕事を引き受け、専門家としての立場と取引上の距離を保ち、ツールを使って診断し、解決策を提示します。

この数十年間で、生産性の向上、スキルの標準化、パフォーマンスの最適化などを目的とした、そのような様々なマネジメントモデルやツールが現れました。
バランス・スコアカード、SWOT、KPI、ペイ・フォー・パフォーマンス(成果連動型報酬)、コア・コンピタンス開発、プロセス・リエンジニアリング、その他種々のモデルや競争戦略が提案され、組織のマネジメントに取り入られてきました。そして、これらは当然の手法となり、その妥当性を企業側が疑うことさえなくなっています。

しかし、これらの理論やモデルは本当に機能しているでしょうか?

理論が真実であるならば、それがあらゆる状況で結果を生み出すことを証明しなければなりません。しかし、その妥当性を証明する研究や統計はほとんどありません。
エビデンスは、点での成功に限られます。そして、たまたま運よく一度か二度うまくいったものは、それが特定の状況においてのみ有効であるにもかかわらず、誰もが従うべきベストプラクティスだと大々的にレッテルを貼られ、あらゆる企業にあてはめられるのです。

例えば、ニューヨーク大学スターン校ビジネス倫理学非常勤教授でありコンサルタントでもあるマーク・ホダック(Marc Hodak)によると、S&P 500企業の15%がバランス・スコアカードに基づくインセンティブ・プランを取り入れましたが、それらの企業の業績は、取り入れていないその他の企業より平均3.5%低かったというデータすらあるほどです。(1)

私たちは、経営の達人やコンサルタントによって、マネジメントは科学であり、ビジネスは理論で、数字によって管理するべきもので、特定のモデルを使うことで成功を手に入れられると信じ込まされてきました。

しかし、実際にはビジネスは合理的ではないため、期待された成功を実現することはできません。ビジネスとは人間がおこなうものです。人間は非合理的で、感情的で、奇妙な癖があり、セオリー通りには動きません。

また使用するモデルが複雑になり、細分化し、数値化する過程で、その管理作業自体に忙殺されるようになり、モデルや数値が達成するはずであった、そもそものビジョンや目標が片隅に追いやられます。
気が付くと何のために数字を管理しているのかを忘れ、数字を管理するためだけに数字を管理するようになります。

数値化の別の問題は、多くの数字が恣意的に操作できてしまうことです。
そのため、客観的なデータを見ているつもりが、様々な主観や思惑、個人的な利益、バイアスやエゴに操作された数字を見ているのです。

組織のほとんどの問題は人間が生み出しているにもかかわらず、多くのモデル、プロセス、ステップが、意思決定から感情を、マネジメントから判断を取り除いていき、経営者は人的要因から目を背けるようになります。
人は資産だと言われますが、本当に人が人間ではなく他の資産と同様に扱われ、計測され、監視され、評価され、標準化、合理化されるべきアセットとして扱われます。人が手法を管理するのではなく、手法が人を管理するようになるのです。

その一方で、モデルやプロセスのベースとなる数字は、人間の欲望やバイアスやエゴに染まっているのです。

経営コンサルタントやマネージャーとして30年以上のキャリアを積む中で、著者は徐々に、経営理論の多くが間違っていることに気づいていくのです。

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身の回りの物事に当てはめる

この本が面白い理由の1つは、今述べたような組織の問題を、私たちの身の回りにある問題に当てはめて、分かりやすく、そして痛烈に、いかにそれらの手法が間違っているかを示している点です。

その一例が、ダイエットやエクササイズです。

世の中では、毎年毎年、新しい食事療法や健康法、スーパーフード、フィットネスプログラムが紹介されます。
しかし、それらは、一時の流行になることはあっても、長期的に定着することはまずありません。なぜでしょうか?

また、ダイエットでハードルの高い数字目標を掲げて、無理してなんとか達成するものの、すぐリバウンドしてさらに不健康になることもあります。

実は、健康でいるための方法は、誰もが知っています。バランスよく食事をとり、十分な運動と睡眠をとることです。にもかかわらず、あたかもお手軽な特効薬や魅力的な解決法があるように見せかけ、次から次へと新しい商品やサービスが提供されるのは、経営コンサルタントが、新しいモデルや理論やツールを売り込むのと似ています。

その結果、企業は、ダイエットに失敗した人と同じような悪循環に陥ります。ダイエットをしては太り、さらにダイエットをしては健康を害するのを繰り返すのです。流行を止める唯一の方法は、流行を作り出し危機感を煽る経営コンサルタントを止めることです。

本書が発刊されたのは2012年ですが、その後の事例としてはDX(デジタル・トランスフォーメーション)があげられますね。どのコンサルもDX、DXと騒ぎたてますが、本来のDXの意味からだんだんズレてきていて、またそれ以前の問題として、もっと別のところにやるべき重要なことがあるのではないでしょうか。

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その他の面白い事例

書籍で書かれている、コンサルタントの問題を身の回りの問題に当てはめた、その他の事例をいくつか紹介しましょう。

1.成果連動型報酬の例

ラリーは少年サッカーチームのコーチです。
昨年チームは散々な成績に終わったので、今年は子供たちのやる気を引き出すために、新しい方針を導入することにしました。

トライアウトを行って子供たちにポジションを割り当てるだけでなく、ポジションに応じてセーブ数、ゴール数、守備の動きなどの細かい個人の目標も決めました。試合ごとの目標もあれば、シーズン全体の目標もあります。

目標を上回った子供たちには試合後にアイスクリームを2つ、目標を達成した子には1つご褒美として与え、達成できなかった子にはチームメイトがアイスクリームを食べるのを眺めさせることにしました。
さて、このチームは今年どんな成績を収めたでしょうか?

2.パフォーマンス・コーチングの例

うちの夫は皿洗いをしないので、いつもイライラさせられます。
この問題に対処するために、私は人間関係のスキルに関する1週間のワークショップに参加し、夫に対して使用するフィードバック・モデルをマスターしました。それは「相手に許可を得て、具体的に伝え、結果を説明し、行動につなげる」ASCAモデルという新しい理論で、さっそく夫に試してみました。

その結果、夫はもっと掃除をすると約束はしたものの、その後の行動は何も変わりませんでした。
フィードバック・モデルの問題解決シートを確認したところ、行動が具体的でないからだと分かったので、いつどうやって掃除するかを具体的に示した行動計画を立てて、それを渡したところ、夫はただただ目を丸くしました。彼はコーチングでも対処できない問題のある人間なので、離婚も考えなければなりません。

3.コンサルタント選びの例

私たちは結婚して10年以上になり、2人の小さな子供がいます。
しかし、最近、家計、家事、親密さの欠如など、あらゆることで夫婦間の口論が絶えません。昨夜もまた口論になり、感情を抑えきれずに泣き出してしまいました。

2人とも、まだお互いを愛していて、特に子供たちのためにうまくやっていきたい気持ちは同じです。それで、外部の助けが必要だという結論に達し、結婚カウンセリングを試してみることにしました。2人は良いカウンセラーがいないか調べ、5人のカウンセラーを勧めてもらいました。次の5人ですが、あなたはどのカウンセラーを選びますか?

カウンセラー1:夫婦間のあらゆる問題を確実に解決するための5つのステップからなるプログラムを提供します。最初のステップはウェブサイトに掲載されているので、自宅で無料で試して始めることができます。

カウンセラー2:幼い子供がいる夫婦間の喧嘩のスペシャリストです。他のカップルへのサービスの実績があり、あなたの問題を正確に把握できます。あなたが何をすべきかをまとめたマニュアルを提供し、教材について質問があれば2回まで無料相談を受け付けます。

カウンセラー3:お二人に受けていただく独自の評価モデルを開発しました。その結果から、夫婦関係の標準的な解決策をベースに、オーダーメイドの解決策を提供します。

カウンセラー4:有名な本を何冊も出版している有名な著者であり、料金が高い上に、忙しいため、カウンセリング・セッションを受けることも難しいです。そのため、結婚カウンセリングのあらゆる点をステップごとに導いてくれるソフトウェアの購入を勧めています。

カウンセラー5:お二人の問題についてじっくりと座って話し合うことから始めたいと考えています。

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さいごに

今紹介した事例にあるように、ビジネスは人生と異なるものではなく、人生そのものです。健全なビジネスを育むために必要なものは、幸せな人生や良い関係性を育むために必要なものと同じなのです。

著者のフェランは「人間の本性に逆らって仕事をするよりも、人間の本性に働きかけて仕事をしたほうが、成功する可能性がはるかに高くなる。職場から人間性を取り除こうとするのではなく、人間性をできるだけ伸ばす努力をする必要がある」と強調します。

フェランは、組織の問題は、人の関係性やコミュニケーション、相反したゴールにあると言います。

先ほど紹介したエドガー・シャインのレベル1コンサルタントに対して、レベル2コンサルタントは、関係構築型の謙虚なコンサルタントで、クライアントに対してどのような方針をとるか事前に計画せず、本当の思い、悩み、課題を浮き上がらせ、クライアントへのコミットメント、好奇心、ケアを持って、オープンで信頼できる関係を築きます。
エドガー・シャインは、今の複雑な時代に必要なのはレベル2コンサルタントだと言いますが、フェランの主張も同様です。

しかし、残念ながら、もし「組織の人間関係の問題を解決します」とか「みんながもっと協力して仕事をできるような手助けをします」と売り込んでも、多くの企業はそのようなサービスに興味を示しません。
コンサルタントは、方法論、モデル、マトリクス、プロセス、システムを売ることが目的であり、企業側も、それらを導入することが目的になっているからです。

つまり、問題はコンサルタント側だけにあるのではなく、企業側にもあります。
企業の多くは、経営者と従業員の良好な関係性など話したくもなく、指示する側とされる側の立場を保っていたいのです。企業の多くは、人に関する複雑な問題を話し合いたくなく、モデルや理論や数字について話していたいのです。

最近よく耳にするエンゲージメントやウエルビーイングでさえも、人の表面的な部分しか取り扱っていないように感じます。
また、最近はAIの進化などによって、ますます多くのデータを効果的に利用することが求められています。しかし、人の心の問題や人と人との関係がますますおざなりにされているような気もしますが、みなさんはどう思われますか?

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参考文献
(1) Marc Hodak, “Pay for Performance: Beating “Best Practices””, Corporate Board: role, duties & composition, Volume 2, Issue 3, 2006

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