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組織改革におけるスモールウィン(Small Win)とクイックフィックス(Quick Fix)

  • 投稿カテゴリー:Change Management
  • 投稿の最終変更日:2022年2月20日
  • Reading time:6 mins read

組織改革という大きな課題にそのまま向き合うのは難しく、小さな成功(スモールウィン:Small Win)を積み重ねていくのが効果的ですが、それが応急処置(クイック・フィックス:Quick Fix)にはなっていないでしょうか?応急処置は短期的には効果があるように見えますが、長期的には事態を悪化させる事があります。

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小さな成功とは?

以前、組織改革のような大きな改革には、大きなかたまりのまま対応するのではなく、小さな成功(スモールウィン:Small Win)を積み重ねていくことが効果的だと紹介しました。
大きな課題にそのまま向き合って成功することは至難の業です。私たちには認識能力の限界があり、限られた範囲での合理性しか持ち合わせておらず(限定合理性:Bounded rationality)、その範囲を越えると合理的な判断ができません。
また、組織改革を成功させるためには、日常業務を日々こなすだけでは身に付けることができないスキルが必要ですが、課題や影響を及ぼす範囲を小さくして対応する事で、必要なスキルのハードルが低くなり、困難な社内調整の必要性も減り、巨大な取り組みに対峙する際のどうしようもない無力感が消え、よりコントロールできる感覚を持つ事ができます。
小さな取り組みでも成功を収めることには下記のようなメリットがあります。

1.変革の労力・試みが価値がある事を証明できる。
2.チームにポジティブな感情、自信と勢いを与える。
3.新たな仲間や支援、支持を呼び込む事もできる。
4.検証とフィードバックにより、新たな知見を得る。
5.批判家や皮肉屋を弱体化させ、抵抗を抑える。
6.上司の理解、関与、コミットメントの向上。

しかし、小さな成功(スモールウィン)には気を付けるべき落とし穴があります。その小さな取り組みが応急処置(クイック・フィックス:Quick Fix)になっていないか?という点です。

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応急処置(クイック・フィックス) = 「フェイク」な小さな成功 

応急処置(クイック・フィックス)は、短期的には効果があるように見えますが、長期的には逆効果をもたらす可能性がある問題対応です。問題の本質に向き合わず、小手先の対応で間に合わせている為、繰り返し同じ問題が発生します。クイックフィックスは、組織や、私たちの身の回り、そして私たち自身にも多く見られます。例えば次のようなものです。

  • 業績が悪くなったので、その部署を縮小する
  • うまくいっていないプロジェクトのプロジェクトマネージャーを変える。それでもダメならまた変える(なお、この場合問題なのはプロジェクトマネージャーを変え続ける意思決定者です)
  • 発生した問題への火消しで取り合えずリソースを大量に投入する
  • 設備トラブルで、生産ラインを止めるわけにいかないので、その場しのぎのパッチワークで対処するが、最終的に大問題に発展する
  • 継ぎ足しでシステムの修正を繰り返し、最後に手の付けられない複雑なモノになる
  • 品質が基準に満たなかったので、データを改ざんして対応したが、組織にその慣習が蔓延して、報道で不祥事が明らかになって会社の信用を失う
  • 貧しい国への短期的な救済援助を長期間継続して、人々を弱体化させ自律を妨げる
  • 飢餓を撲滅するために食糧援助を優先し、食糧価格を引き下げる事によって、地元の農業の発展を妨げる(1)
  • なにかある度に安易に大量の税金をつぎ込んでその場しのぎの政策をし、国の借金を膨らませ続ける
  • エナジードリンクやドーピングで瞬間的にブーストするが、長期的な健康に害を及ぼしたり、それがばれて競技の舞台から退場させられる
  • 仕事に追われた後ストレス発散でまた深酒し、二日酔いでまた午前半休する
  • 頭痛の度に痛み止めを飲むが、頭痛の原因はなくならない
  • 体重が増えてきたので、カロリー摂取を抑えるサプリを取るが、飲み食いの量は変えない

。。。例が山ほどあり過ぎてキリがありません!もうやめましょう(笑)。

これらの例に共通するのは、すぐに結果を出すことへの動機やプレッシャーがあったり、本質的な問題解決は実行するのが大変なため、実行が楽であるという点を優先して、視点が短期的で、長期的な視点が欠けている点です。もちろん、応急処置が必要な緊急な場合はあります。しかし「応急」なのですから慢性的に使うべきではありません。

下記、スモールウィン(小さな成功)とクイックフィックス(応急処置。場当たり的な対応)の違いです。

スモールウィン(小さな成功):視点が長期的、大きな目的とのリンクがある
クイックフィックス(応急処置):視点が短期的、即効性はあるが大きな目的達成には繋がらず悪化さえする

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応急処置(クイック・フィックス)のダークサイド

応急処置(クイック・フィックス)の最も恐ろしい点は、短期的には問題を解決しているように見えてしまう点です。そして、問題の本質には向き合っていないので、多くの場合長期的には問題を悪化させる逆効果をもたらすのですが、その逆効果が現れるまでにはタイムラグがあり、しばらくしてからでないと負の影響が顕在化しない点です。

ダニエル・キム(Daniel H. Kim)は、組織において応急処置(クイック・フィックス)の影響は、「ヒーロー ➡ スケープゴート」のサイクルとして現れると説明します(2)応急処置(クイック・フィックス)を実行したマネージャーは、問題を軽減させた功績によって組織からヒーローとして評価されます。しかし、しばらくして新しいマネジャーに変わった後、その応急処置の負の影響が表れてきます。その新しいマネージャーは、「前のマネージャーはうまくやっていたのに、なぜ君はうまくできないのか?」と責められます。つまり前のマネージャーのスケープゴートになります。そしてまた新たなマネージャーがヒーローとして現れ、 更に強化した応急処置で組織内での評価を上げるというサイクルです。

組織の応急処置は、短期的には成果(のように見えるもの)を出すのですが、その効果は長続きしないどころ落ちていくため、「最初の対応が緩すぎた」、「もっと強くやらないとダメだ!」などと考えて、更に人やカネやその他リソースを投入することで強度を上げて繰り返し、ますます問題の本質から乖離していく、強烈な負のフィードバックループを生み出します。
短期的な成果への視点が強い組織では、問題の本質を解決しようとするメンバーは評価されずスケープゴートになるため、この応急処置(クイック・フィックス)の負のフィードバックループから抜け出すのはとても困難になります。

図:最終目標へ貢献するスモールウィン(右)と、貢献しないクイックフィックス(左)

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実は日本企業が得意だったはずの小さな成功の取り組み

以前も紹介しましたが、小さな成功を積み上げる取り組みは、トヨタ生産方式で知られる改善(カイゼン)に似ています。カイゼンは自分たちで実行できる小さな改善を積み重ねていく生産性向上の取り組みです。
またISO9000シリーズの品質管理システムにも似ています。ISOに基づいた品質管理では不適格が発生した場合は、その根本原因を究明して、是正措置と予防措置を講じます。その繰り返しでより良い品質を安定して達成していきます。

つまり、このようなものづくりや品質管理での小さな成功や改善の積み重ねは、世界に知れ渡っている日本型マネジメント、日本の会社のお家芸でもあります。なのになぜ組織改革になるとそれができないのでしょうか?

カイゼンやISOの取り組みに見られる生産ラインの改善や品質の確保は目的が明確な場合が多いです。例えば、トヨタ生産方式の基本思想は「徹底したムダの排除」です(3)。誰もがこの基本思想を共有しています。
一方で、組織改革の取り組みは、大きな目的、目標が明確でない場合が多いです。この目的の欠落や曖昧さがうまくいかない決定的な要因です。
また、カイゼンに見られる作業環境や作業方法の改善などで日本の企業が強みを発揮するベースはどちらかと言うとハード面にありますが、組織改革に必要なのはソフトスキルです。
残念ながら日本の組織は、このスキルを含めた新しい知識やスキルを得るための学習が圧倒的に不足しています。スキルを習得していないからどうしたらいいのか分からないのです。

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最後に

小さな改革といっても、今までの業務の延長線上にはありません。未知なる世界へ歩みを進める小さな一歩です。今までの前提に基づいた小さな取り組みでは、スモールウィン(小さな成功)を意図したつもりが、実は応急処置(クイック・フィックス)になってしまっている事があります。小さな成功に効果が感じられない場合には、その取り組みが本当に長期的な視点に立っているか、応急処置になっていないか、一度俯瞰的に見直してみましょう。
大事なのは「Think Big, Win Small(大きく考え、小さく成功する)」です。

スモールウィン(小さな成功)でもう一点注意が必要なのは、スモールウィンはゴールに向かって一つ一つ順序立てて進めていかなければならない取り組みである必要はない点です。1つ1つがスタンドアローンで、それぞれがバラバラの取り組みであっても構いません。ただし、重要なのは、それぞれが最終目的を共有し、同じ目的地を見据えた取り組みであるという点です。
スモールウィンは共通の目的に向かうのに対して、クイックフィックス(応急処置)はそうではありません。
「私たちは変わらなければならない!」「会社を変えて行こう!」と組織がメッセージを発しても、ゴールや目的が共有されておらず、どのような姿に変わるのか全然分からなければ、本当にバラバラな的の外れた小手先だけの取り組みを繰り返すだけです。

参考文献
(1) デイヴィッド・ピーター・ストロー, “社会変革のためのシステム思考実践ガイド――共に解決策を見出し、コレクティブ・インパクトを創造する”, 英治出版, 2018/11
(2) Daniel Kim, “Fixes That Fail: Why Faster Is Slower”, Systems Thinker, Vol.10 No.3, 1999/4.
(3) 大野耐一, “トヨタ生産方式 脱規模の経営をめざして”, ダイヤモンド社, 1978/5.
(4) Karl E. Weick, “Small wins: Redefining the scale of social problems”, American Psychologist, 39(1), 40–49., 1984.
(5) Barlow Soper, C. W. Von Bergen, Carolyn C. Sanders, “Small Wins and Organizational Development”, International Association of Management Journal, Volume 8, Number 1, 1996. Page 3. 46.

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