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書籍紹介:スティルネス ─ 内なる静けさ Stillness Is the Key

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2026年5月31日
  • 読むのにかかる時間:9 mins read

「人類のあらゆる問題は、人間が一人で静かに部屋に座っていることができないことから生じる。」数学者パスカルの言葉です。私たちは、つねにせわしなく動いていて、内なる平静を失っています。情報を多く持ち、忙しいことが評価される時代にあって、聞くべきことだけを聞き、落ち着いて行動する揺るぎない心を持つ必要があります。

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はじめに

「心の平静 – 常に変わらない内なる平和」。

それは、仏教ではウペッカ(upekkha)という言葉で表現され、イスラム教ではアスラマ(aslama)、ヘブライ語ではヒシュタヴット(hishtavut)と呼ばれました。戦士アルジュナの叙事詩であるバガヴァッド・ギーターの第二巻では、サマトヴァム(samatvam)という言葉が用いられています。

ギリシャ人はエウテュミア(euthymia)とヘシュキア(hesychia)、エピクロス派はアタラクシア(ataraxia)、キリスト教はアエクアニミタス(aequanimitas)と表現しました。

英語では「スティルネス(Stillness)」、日本語では「心の平静、内なる静けさ、静寂」。

世界が目まぐるしく変化しても、揺るぎない心でいること。慌てずに行動すること。聞くべきことだけを聞くこと。外面も内面も、自在に静寂を保つこと。

道(dao)とロゴス(logos)に触れること。仏教。ストア派。エピクロス派。キリスト教。ヒンドゥー教。多くの哲学や宗教が、内なる平和と平静さを最高の善や徳とし、幸福な人生への鍵であると説いています。

広大な海と距離によって隔てられ、異なる時代に現れたのにも関わらず、ほぼすべての古の知者の知恵が一致しているのは偶然ではなく、それが真実だからです。それぞれ独自の道を歩み、同じ目的地へたどり着いたのです。にも関わらず、なぜ私たちはそれに耳を傾けようとしないのでしょうか?

深く集中し、ひらめきやインスピレーションが突然訪れた経験のある人は、静寂を知っています。何かに全力を注ぎ込み、何ひとつ残さずやり遂げたという誇りを感じた人は、静寂を知っています。

静寂とはただ静かに座っていることだけではありません。活発に動いていても静寂を保つことができます。これまでの訓練のすべてをたった一瞬のパフォーマンスに注ぎ込む人は、静寂を知っています。どんなに騒がしい環境で、どんなに忙しくしていても、高いパフォーマンスを生む人たちは、静寂を知っています。

『マルテの手記』で知られるオーストリアの詩人ライナー・マリア・リルケは、静寂を「あらゆる無作為さや漠然さが消え去った、満ち足りた、完全な状態」と表現しました。

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なぜスティルネスを獲得するのが難しいのか?

1654年、フランスの哲学者であり数学者のパスカルは、こう言いました。

人類のあらゆる問題は、人間が一人で静かに部屋に座っていることができないことから生じる。

私たちの社会では、静寂がますます稀になってきています。私たちは、生まれた瞬間から忙しさを与えられて、その中で本来持つ静寂を行使することで得る力を衰えさせています。失われつつある力と繋がり直さなければなりません。

今回紹介する『Stillness Is the Key(邦題)スティルネス ─ 内なる静けさ』の著者ライアン・ホリデー(Ryan Holiday, 1987 -)は、特にストア哲学(ストイシズム)に強い影響を受けた、私のお気に入りの作家の一人です。以前も本サイトで彼の書籍『Ego is the enemy(邦題)エゴを抑える技術』を紹介しました。

本書は、私たちが潜在的に持っている静寂をいかに掘り起こし、活用するかを示し、現代社会が抱える問題解決のヒントを与えています。本書は2019年に出版されたものですが、皮肉なことに、テクノロジーの発展によって、ホリデーの助言の重要性はさらに増し、もはや警告と呼べるほど高まっています。

私たちは静寂の力を生まれつき持っています。しかし、それにアクセスするのは容易ではありません。静寂が私たちに語りかける声に、真摯に耳を傾けなければなりません。そして、その呼びかけに応えるには、忍耐力と熟練が必要です。

アメリカのコメディアンであり、俳優、脚本家でもあったギャリー・シャンドリングは、名声と富と苦闘しながら、「心を静かに保つことは、途方もない訓練である。それは、人生最大の覚悟をもって向き合わなければならないものだ」と記しています。

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ペースを落とし、思考を取り戻す

スマホとSNSの普及により、私たちは四六時中、質の悪い多くの情報に晒されるようになりました。英語には「Garbage In, Garbage Out」という言葉がありますが、質の悪い情報ばかり頭に入力しているから、質の悪いアウトプットしか出力できません。

私たちは表面的なもの、他の多くの人が見ているものに惑わされたり、騙されてたりしまいます。ただでさえ表面的で受動的な考え方しかできない人たちがすでに増えているのに、アルゴリズムの強化とAIの登場により、自ら深く考えるという作業は、さらに失われていくでしょう。

私たちには、立ち止まってじっくりとものごとを観察する時間が必要です。そして、深く考える時間が必要です。私たちに必要なのは、深く考える作業をできるだけ「外注」しようとすることではなく、それを取り戻すことです

深く考えるから、原則にたどり着くことできます。原則にたどり着くから、決断が必要な場面で深く考えなくても正しい判断ができるようになります。

野球選手もそうです。練習と試行錯誤を繰り返し、原則にたどり着きます。良い成績が出ていない時に考え過ぎるとますますスランプに入り込んでいきますが、逆に調子がいい時は、普段練習していることや注意していることを深く考えなくても、体が反応し無意識にバットが出るようになります。

人間の心は本来落ち着きがなく、規律がなければ感情的になりやすく、注意散漫で、衝動的です。ホリデーは、人生を極めることは思考を極めることから始まると言います。人や物事に対する第一印象に惑わされてはいけません。忍耐強く静かに物事を見つめれば、私たちは真実に近づくことができます。

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入力する情報を制限する Limit Your Inputs

私たちの目や耳にはあまりにも多くの情報が押し寄せてきます。明晰な思考を保つためには、私たち一人ひとりが、重要でないものと重要なものを区別する方法を身につけることが不可欠です。

1990年代、政治科学者の間で「CNN効果」と呼ばれる現象が研究され始めました。
CNNは、24時間、報道を流し続けます。これは私たちにいつでも最前線のニュースにアクセスできるメリットを与える一方で、常にメディアにさらされることで、受動的な態度を悪化させ、報道内容を自分なりに消化する時間を奪ってしまう悪影響があります。

現代社会ではさらにエスカレートしています。ニュースを流し続けるテレビ番組だけでなく、私たちはInstagramやYoutube、Netflixに24時間アクセスできます。

1990年代は、携帯電話が普及し始めた時期ですが、いまや誰もがスマホを持つ時代です。四六時中スマホばかり見る人は少なくありません。

ホリデーは、絶え間ない情報入力は浅はかな思考を生み出すと警告します。
頭に入ってくるものを選別することで、心を守りましょう。ホリデーはブログの中で「インフォメーション・ダイエット(information diet)」という言葉を使って表現していますが、静寂には、気を散らすものを減らすこと、有害な情報や不必要な情報を取り込んでしまうことに意識的に制限をかけることが必要です。

情報の過剰摂取は、注意力の欠如を生み出す。
     ~ ハーバート・サイモン

A wealth of information creates a poverty of attention.
     ~ Herbert Simon

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頭をカラにする Empty the Mind

かつて私たちは、車窓から流れる景色を眺めながら、ぼんやり考えをめぐらせることがありました。しかし、今は電車やバスでも、多くの人の目がスマホの画面に釘付けです。外を眺めている人を見かける方が少なくなりました。

以前の記事で書いたように、脳科学の発達により、情報入力をやめて考えを巡らせることはデフォルトモードネットワークの働きを活発にして、無意識に情報を整理したり、繋げたり、深く統合して、創造的なアイデアを思いつくのに役立つことが分かっています。

スマホを永遠にスクロールしていると、質の悪い情報を絶え間なく脳に入力するだけでなく、そのような時間も奪られることになるのです。スマホやSNSやAIは、二重の弊害があるのです。

しかし、この主張は一見すると、先ほどの主張と矛盾があるように思えます。思考を取り戻せという一方で、頭をカラにしろとも言っているからです。

しかし、これは全く矛盾していません。

一方では、真に理解するためには、深く観察し、考え、学ぶ必要があります。他方では、鋭い洞察が生まれるためのスペースを作るために、時にはリラックスして、心を空っぽにする必要もあるのです。

多くの人はこの逆を行っています。つまり、質の悪い情報をコンスタントに入力し、心を空っぽにすることもなく、深く考えることもしないのです。

振付師のトワイラ・サープは、私たちに次のようなエクササイズを提案しています。
部屋に一人で座り、思考を自由にさまよわせてください。これを1分間行います。この無意識の思考のさまよいを、1日10分まで徐々に増やしていきましょう。次に、思考に意識を向け、言葉や目標が浮かび上がるかどうかを確認します。もし浮かび上がらなければ、11分、12分、13分と時間を延ばし、何か興味深いことが思い浮かぶまで続けてみてください。この心の状態が「孤独のない静けさ」です。

ホリデーは、静かに過ごす時間を持つことの他に、定期的に運動すること、散歩をすることも勧めています。精神的な明晰さは、身体的な規律に支えられます

ニーチェ、ダーウィン、チャーチルなど、多くの偉大な思想家が、思考を深めるためにウォーキングを取り入れました。ウォーキングは心を落ち着かせ、内省を深めます。ランニングやウォーキングなど、一定のペースで同じ動作を繰り返す周期運動は、動きそのものが瞑想的な効果をもたらします。

また、静寂は美を体験することからも生まれます。自然の美しさに触れ合うこと、芸術を鑑賞することなどです。

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日記をつける Start Journaling

ホリデーは日記をつけることも勧めています。日記を書くことで、自己分析したり、感情を処理したり、思考を整理することができます。

マルクス・アウレリウスのような歴史上の偉大な人物も、思考を磨くために日記を用いていました。

私自身もこのブログを何年も書いてきて、「書くこと」の力の大きさを身をもって体験しています。本サイトで紹介してきたような作家やブロガーも、折に触れて、書くことの重要性を伝えています。

ホリデーは彼のブログの中で毎日の日課を紹介しています。

彼は、毎朝散歩した後、二階の書斎へ行き、小さなノートを3冊取り出します。一冊目には、過ぎ去った一日について一文だけ書きます。2冊目には、昨日した運動、仕事内容、特筆すべき出来事、そして感謝していること、もっと上達したいことなどをさっと書き留めます。最後の一冊で一日の準備をします。

この一連の儀式は15分ほどで終わるものですが、作業を終える頃には、心が落ち着き、穏やかになり、創造的な仕事に取り組む準備が整うと言います。

ホリデーは本を読むことも推奨しています。哲学、歴史、文学などです。流行を追うのではなく、時代を超えた思想家たちから学びましょう。古代の知恵は、現代の混沌を乗り越える助けとなります。実際、下のYoutubeで見られるように、彼の書斎は膨大な数の書籍で囲まれており、また彼は自身が勧める本を販売する書店も運営しています。

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十分を知る Enough

これは前回の記事でも書きました。

成功。お金。名声。地位。尊敬。
これらをどんなに手に入れても、決して満足感を与えてくれません。これらの目標を達成して、いつか成功したと思える時が来ると信じているなら、不快な驚きが待っているでしょう。

達成したようにに思えた瞬間、もっともっとと、目標はさらに一段高く上昇するのです。この繰り返しによって、決して手の届くことはないからです。

外的な成功によって満足感を得ることは決してできません。外的な成功に対する欲望には限りがないからです。満足感は内面から生まれます。現実と戦うのではなく、現実と向き合い、受け入れることから生まれます。

外的な成功の列車から降りましょう。自分が既に持っているもの、ずっと持っていたものに気づくことから始めましょう。これに気づくことができれば、どんな億万長者よりも豊かで、どんな君主よりも強くなれるのです。

共にアメリカの小説家であり、劇作家のカート・ヴォネガットとジョセフ・ヘラーは、かつてニューヨーク郊外の高級住宅街で開かれたパーティーに出席しました。
パーティーの主催者は億万長者で、そこは退屈なほどの豪邸でした。ヴォネガットは友人をからかいます。「このパーティーの主催者が、昨日一日だけで君の小説の全刊行収入を上回ったって知ったら、どんな気分だい?」

「私には彼が決して手に入れられないものがある」とヘラーは答えます。
「へ~、一体それは何だい?」とヴォネガットは尋ねます。
ヘラーは答えました。「自分にはそれで十分という認識だ」

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さいごに

ホリデーの主張はシンプルです。現代社会はスピード、エゴ、そして絶え間ない刺激と興奮を重んじます。しかし、知恵、創造性、幸福は静寂から生まれます。

本書は、以下のことを提唱しています。

  • ペースを落とすこと
  • 取り入れる情報を取捨選択すること
  • オン・オフを切り替え、深い集中力を発揮すること
  • 心身のバランスを取ること
  • 規律ある行動を習慣づけること
  • 自己を認識すること
  • そして、心の平安を得ること

これはまさに、現代社会の情報過多と心理的混乱を生き抜くための、現代版ストア派哲学の手引書です。内なる静寂の中でこそ、私たちは今この瞬間に存在し、真実を見出すことができます。この静寂の中でこそ、私たちは内なる声を聞くことができます。

もし多くの人たちが、テレビやスマホに耳を傾けるのと同じくらいの時間を、自分の内なる耳を傾けることに費やしたら、世界はどれほど違って見えるでしょうか?

もし多くの人たちが、メールの着信音やスマホの通知音に反応するのと同じくらい素早く、自分の信念の呼びかけに応えることができたら、世界はどのようになるでしょうか?

私たちは、静けさを恐れているのではなく、周りの人たちと違う行動を取って愚かに見えることや、取り残されることを恐れています。私たちは、自分を優先すること、社会をよくすることよりも、多数派に合わせ、自分を惨めにしたり、社会を悪化させる方を選びます。

私たちは、人口の99%がしていないような思考を身につけ、彼らが時間の99%を費やしているような破壊的な思考をやめなければなりません。

この本の大部分は、いかにしてより良く生きるかについて述べています。そうすることで、いかにしてより良く死ぬかについても述べています。なぜなら、これらは同じことだからです。

私たちは、自らの運命について、理性的に、そして明晰に考えることを学ばなければなりません。

生きている間に、精神的な意味と善を見出さなければなりません。そうしなければ、未来の私たちは私たち自身を早々に手放さざるを得なくなるでしょう。

 

 

 

 

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