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自己改善や超効率化の先にあったもの:効率化や生産性の達人たちのその後

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2026年5月23日
  • 読むのにかかる時間:12 mins read

生産性向上や超合理化の手法を紹介する数多くのベストセラー書籍があります。しかし、「効率化・生産性の達人」とも言われた作家たちが、その後、自己改善は罠になり得ると、主張を転換することも少なくありません。今回は、なぜ彼らは考え方を変えたのか、生産性を追いかけることの危険性について書きます。

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はじめに

生産性を高め、多くのことを短期間でこなし、経済的な成功を手にすることを人生の目標と考えている人たちがいます。そして、実際に経済的な自由を手に入れ、手に入れたお金と時間のほとんどを自分のために費やして、欲しいものを手に入れたり、色んなところに出かけたり、おいしいものを食べたりして、人生を「謳歌」している人たちがいます。

資本主義に基づいた生活から経済は切っても切り離すことができません。お金がなければ、生きていくことができません。

しかし、このような人生は豊かなのでしょうか?
そもそも生産性を高めることが、人生で成功することに必要なのでしょうか?

今回は、生産性を追い求めてきて、後に方向を転換したり、修正した作家や事業家を紹介します。

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1.「週4時間だけ働く」ニューリッチ、ティモシー・フェリスのその後

本サイトで以前、より多くのことをより短い時間で効率的にこなし、徹底的に仕事を合理化して、自由を手にし成功するためのノウハウを書いた本を紹介しました。

起業家、投資家、作家として成功を収めたティモシー・フェリス(Timothy Ferriss, 1977 -)2007年著のベストセラー『The 4-Hour Work Week : Escape the 9-5, Live Anywhere and Join the New Rich(邦題)「週4時間」だけ働く』です。

そのタイトルが示すように、この本には、時間当たりのアウトプットを最大化するための考え方と方法がふんだんに盛り込まれています。最小の時間で最大の成果を生み出し、短い時間でたくさんお金を稼いで、自分のための時間を増やして、世界中の好きな場所で「ニューリッチ」として人生を楽しもうという内容です。

ティモシー・フェリスは「効率化・生産性の達人」とも言われ、彼のポッドキャストは合計5億回もダウンロードされているほど人気ですが、その後、彼は本書で示した考え方を大きく変えます。(1)(2)

フェリスはもはや、生産性を追い求めることにフォーカスしていません。

彼はより多くのことを追い求め、自己改善を積み重ね、成功することにキャリアの大半を費やし、実際にそれを手にしてきました。しかし、十分なお金を手に入れて成功しても、問題が消え去るわけではなく、むしろ違う種類の問題が彼を悩ませるようになりました。成功を追い求める過程で、大切な人も去っていきました。長くうつ病と闘い続けることにもなりました。彼の本を読んだ読者が自殺する衝撃的な事件もおきました。

ある時、フェリスは自分の心の中の声に気づきます。

「自分は自分が作り上げた物語に人生を支配されている。どれだけお金を持っていようと、どれだけ生産的になろうと、どんなに自由に物を手に入れようが、なんのためにという目的がない限り、お金や成功は役に立たないだけでなく、むしろ問題を引き延ばすだけだ。」

彼が自己改善と呼ぶものは、実際には心の奥底にある痛みを一時的にごまかすための絆創膏に過ぎませんでした。そして、その痛みとは、誰もが経験する「自分には価値がない」という感覚でした。

著名な心理療法士でありマインドフルネスの世界的指導者でもあるタラ・ブラッハ(Tara Brach, 1953 -)は、ありのままを受容することの重要さを書いた著書『Radical Acceptance(邦題)ラディカル・アクセプタンス』の中で、この「自分には価値がない」という感覚について次のように述べています。

「自分に何か問題があると感じることは、目に見えない有毒ガスを常に吸い込んでいるようなものだ」

年を重ねるにつれて、フェリスは自己改善は罠になり得ると思うようになりました。
時に、治療は病気そのものよりも悪い結果を招くことがあります。これは、彼が約20年間専門家として本を執筆し、自らも自己改善し続けてきた経験から言えることです。自己改善に執着する人ほど、実際には恩恵を受けないのです。(3)

大きな問題は、自己改善に執着する人は自分しか見えていないことです。そのため、自己啓発は自己執着に陥りやすいのです。

自己改善に焦点を当てると、まずは自分自身の問題点を見つけることから始めなければならないと考えがちで、これがとても厄介になります。問題解決を重視する社会では、不安を誇張したり、妄想を誘発しがちで、常に不安を抱え、何かを追いかけ続けるようになります。そして、資本主義社会では、それを商売に結び付けようとする人たちに利用され、強化されることさえあります。

次のような仏教のたとえ話があります。

老いた師が大きな岩を指さし、弟子に尋ねます。「あそこの大きな岩が見えるか?」
「はい、見えます」と弟子は答えます。
「重いと思うか?」と師は続けます。
「はい、とても重いです」と弟子は答えます。
「それを持ち上げようとするならばね」と師は微笑みます。

これが自己改善の根底にある前提です。

何かがうまくいっていない。何かが間違っている。何かが足りない。何か修正する必要がある。それを克服すれば、すべてがうまくいく。十分努力して、自分を十分変えることができれば、きっと苦しみから解放される。

残念ながら、これは機能しません。そのような苦しみから完全に解放されることはありません。大事なのはそれを受け入れることです。持ち上げることができない岩を持ち上げようとする必要はないのです。

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2.「超・自習法」スコット・ヤングの正しい生き方

作家であり、プログラマーでもあるスコット・H・ヤング(Scott H. Young)は、17歳の時から20年にも渡って彼のウェブサイトで毎週エッセイを更新しています。

2019年に出版された彼の著書『ULTRALEARNING(邦題)超・自習法:どんなスキルでも最速で習得できる9つのメソッド』は、集中して学ぶことの大切さとその方法を紹介したベストセラーで、20万部以上を売り上げ、数十カ国語に翻訳されました。

しかし、彼も、効率性を手にして成功することがすべてではない、人生のある分野における成功とは、単に気を散らすものが一つ減ることを意味するだけだと言います。(4)

お金持ちになれば、日々の出費を心配する必要はなくなります。しかし、人生のネガティブな部分の一部を取り除いてくれるだけで、ポジティブなもので満たしてくれるわけではありません。

彼は自己改善に力を入れ始めてから、健康状態が改善し、起業し、人との関わりが充実し、多くの新しいスキルも習得しました。その成果には満足していますが、驚いたことに、何かを上達させることが必ずしもすべてに役立つとは限らないことも知ります。

日々の生活は劇的には変わりませんでした。毎朝起きて、食べて、仕事をして、呼吸して、また寝る、という生活は変わりませんでした。

自己改善に意味がないということではなく、それが絶対的なものではないということです。自己改善は解決策の半分に過ぎないのです。もう半分を身につけなければ、真の成功は得られません。そのもう半分とは、目に見えない精神的な成功であり「正しい生き方」から生まれるものです。

ここで言う「正しい生き方」とは、禁欲的あるいは宗教的な生き方を意味するものではありません。単に、解決した問題を、何か良いもので満たすような生き方を指します。人生のネガティブな部分を取り除いた後、それを良いものに置き換えるようなことです。

時間の有効利用の観点から見ると、ToDoリストを作成したり、タスクをアウトソーシングしたり、先延ばしの癖を克服したりすることで、毎週数時間の余裕が生まれます。しかし、成功のもう一方の要素である「正しい生き方」がなければ、その時間的余裕は無駄なことで浪費されてしまいます。

彼自身、この問題に直面したことがあります。何年間もマルチタスクで生産性を高め、忙しい日々を過ごしていましたが、ある時初めて4ヶ月間、何の邪魔もされない時間ができました。

休暇の最初の1週間で何が起こったと思いますか?
退屈になったのです。

時間管理をマスターしてタスクを効率的に実施する方法は得ることができました。しかし、そうやって自由になった時間をどう活用すればいいのか分からなかったのです。

成功によって生じた心の穴を埋めるには、正しい生き方が不可欠です。そうでなければ、その努力は無駄になります。

自己改善は万能薬ではありません。解決できない問題もあれば、解決できたと思っても自分の力ではどうにもならない要因によって再発するものもあります。これは人生における事実であり、自己改善そのものの無力さというよりも、むしろ人生の理不尽さを物語っています。

たとえ今の生活に苦労が多いと感じていても、移行期に備えて準備しておくことです。

たくさんお金を稼いで早期退職したいと思っていても、人生が「何を中心に」進むのか計画がない人は、その目標を達成した後に思わぬ事態に直面するでしょう。

痩せたいと思っていても、その目標を達成した後に運動を続けるモチベーションが分からない人は、諦めてしまうか、やり過ぎて疲れてしまうかもしれません。

具体的には、困難の克服や自己改善のモードから、人への奉仕、熟達、創造性といったモードへ移行する必要があります。

スコット・H・ヤングは、20代前半の頃に彼を突き動かしていた、人生の様々な側面を「改善」しようとする原動力は、ほとんど消え去ったと言います。

彼は今、正しい生き方を支えるものとして、12のエリアでバランスを取った実践をおこなっています。それは、健康、生産性、お金、食べ物、読書、訪問、睡眠、内省、交際、焦点、組織、奉仕という12のエリアです。彼はこの12のエリアでの実践を開始してから、次の5つの気づきを得ました。

・習慣付けは一時的な解決策に過ぎない。変化を定着させるためには、態度や考え方そのものを変えなければならない
・大切なものの優先度を高めれば、問題はもっと簡単になる
・「なすすべがない」ことはほとんどない
・「十分であることに満足すること」の価値が過小評価されている
・人生は人に関わってもらう必要がある

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3.カル・ニューポートの「スロー・プロダクティビティ」

カル・ニューポート(Cal Newport, 1982 -)は、アメリカ、ジョージタウン大学のコンピュータサイエンスの専任教授であり、ノンフィクション作家でもあります。

彼は、2016年出版の書籍『Deep Work: Rules for Focused Success in a Distracted World(邦題)ディープ・ワーク』の中で、メールやSNSなど、私たちから集中力を奪うものであふれている現代の仕事環境において、認知的負荷の高い作業に集中できる能力の取得が重要だと述べました。

この書籍の主な主張は、集中力を養い、認知能力を限界まで高め、複雑な情報やスキルを素早く習得し、一切の邪魔が入らない状態で専門的で高度な「ディープワーク」によって質の高い成果物をより短時間で生み出して、キャリアと人生の成功を手に入れることにあります。

そのためには、ますます増えているメールや会議などの「シャローワーク」(認知的な負荷が少なく、気が散った状態で行われる浅い雑務)を最小限に抑える必要があり、そのための時間の使い方や、SNSやスマホとの付き合い方などの実用的なアドバイスをしています。

本書は、45か国語に翻訳され、2百万部以上も売れるベストセラーになりました。

しかし、カル・ニューポートは、その後、生産性から意味と深みへ考え方を進化させています。

2024年に書いた『Slow Productivity : The Lost Art of Accomplishment Without Burnout(邦題)SLOW 仕事の減らし方 ―「本当に大切なこと」に頭を使うための3つのヒント』の中で、彼は「スロー・プロダクティビティ」という考え方を唱えています。

「スロー・プロダクティビティ」は、書籍『ディープワーク』で示した、生産性や最適化への集中、人生=成果の最大化という考え方を進化させたものです。

現代の仕事環境は、より多くのことをより少ない時間で行うという過負荷と過密化に支配されている一方で、明確な目的のない仕事が増えています。大量の作業を効率的にこなして、仕事をしているという錯覚を生み出す「偽りの生産性」をさらに高め、私たちはますます自分を忙しそうに見せています。

「より多くの成果をより少ない時間で実現する」から「より大切で少ないことをより良く行う」

「スロー・プロダクティビティ」とは、単なる仕事の最適化や仕事量を減らすことではなく、長期的に見て有意義で持続可能な成果を中心に据えることであり、正しいことを、自然なペースで、深く掘り下げて行うことです。

そして、生産性は人生の目標ではなく、意義のある人生を送るためのツールにすぎないと、生産性そのものを再定義しています。仕事の最適化から、質、深み、そして意味への移行です。(5)

「スロープロダクティビティ」は「ディープワーク」の言い換えのように思われる人もいるかもしれませんが、実際には問題の異なる側面を扱っています。

「ディープワーク」 = 仕事のやり方
「スロープロダクティビティ」 = 何の仕事に取り組み、どれだけ時間をかけるか

ディープワークは集中力を高めるのに役立ちます。スロープロダクティビティは、何に集中すべきか、そして何を無視すべきかを知るのに役立ちます。

ディープワークが解決するものが、注意散漫、浅い仕事、集中力の欠如、ソーシャルメディアとの関わり方などである一方で、スロープロダクティビティが解決するものは、意味のない仕事や人生の断片化です。

私たちは、あまりにも多くのことに意識を向け、その結果、圧倒されたり、大切なことから気をそらしています。ほんとうに大切なものに絞って、その狭い範囲に留まり、より深く掘り下げる必要があります。

なお、彼は下のYoutubeの中で、もし10年前に書いた『ディープワーク』を今書き直すなら?というテーマで話しています。

SNSについての問題は、10年前に主にあったような友人同士の関係性などを超えて、中毒性にエスカレートしていると述べています。
AIの影響についても触れていて、AIの登場によって考える力が脅かされる危険性や、AIを使って短時間でレポートを作成することが生産性ではないなど、生産性が誤解されていることについて述べています。

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4.生産性ジャーナリスト、オリバー・バークマンの転換

最後に紹介するオリバー・バークマン(Oliver Burkeman, 1975 – )は、英国の作家兼ジャーナリストであり、以前はガーディアン紙の週刊コラムを執筆していました。

彼は元々生産性を高めることの重要性などを謳ったライターでしたが、反時間管理へと移行し、今は、時間管理や生産性への執着は根本的に間違っていると主張します。(6)

どんなに生産性を上げようが、増え続けるTo Doリストのすべてをやり遂げることは決してできません。効率性を求めることで、私たちは自分自身をより焦らせ、自らのストレスを高めています。

彼は2021年に出版された著書『Four Thousand Weeks: Time Management for Mortals(邦題)限りある時間の使い方』の中で、時間管理が私たちの人生を台無しにする理由を述べています。

人間の平均的な寿命は約80年で、週に換算すると、英語版のタイトルのように約4,000週になります。たった4,000週しかありません。生産性向上重視の現代社会は、限られた時間の最適化を解決すべき問題として捉えています。

しかし、実際は効率が上がれば上がるほど、やることがどんどん増えていくだけです。すでにメールやメッセージは、対処できないほどの数まで増加しました。生産性向上アプリやAIなどテクノロジーの進化によって、こなすべきタスクはさらに増加しています。増え続けるタスクに、「いつか、すべてを完璧にこなせる日が来る」という幻想を持ちますが、そんな日が来ることは決してありません。

根本的な問題は、より多くのタスクを片付けることと、人生の意味を見出すことを混同していることです。

私たちは、限界に直面することを避けようとします。そして、忙しさはその心理的な回避行動となります。​​常に何かに追われていると、気を紛らわせることができます。すべてをこなすことはできないので、先延ばしは避けられません。

​​「何を先延ばしにしているのか?」

私たちは、人生で最も大切なことを先延ばしして、あまり意味のないことを優先しています。

何か1つを選ぶには、他の何かを捨てる必要があります。これは避けられないことであり、有意義な人生を送るためには不可欠なことです。
真の問題は、効率化が十分でないことではなく、「可能な限り多くをやり遂げようとする」社会システムが根本的に間違っていることです。人間や時間には限界があるため、すべてをやり遂げることは決してできないのにです。

本書は、限界と戦うのではなく、限界を受け入れることを提唱しています。時間管理とは、有限性をコントロールすることではなく、それを受け入れることです。

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さいごに

以上、4人の生産性を書いた書籍の作家と、その考え方の変化を紹介しました。ここまで読んできて4人ともスタート地点は違えども、最終的には同じような場所に到達しているのがお分かりになるでしょう。

まず、生産性を上げることは手段の1つであり、目的ではないことです。

人生は有限です。何が大切か、注意を向けることが大切であり、それを選択することが大切であり、人間関係が大切であり、今この瞬間を生きることが大切です。目的がない限り、生産性の向上が私たちを正しい方向に導くことはありません。

メール、ソーシャルメディア、際限のなく画面に現れる情報、スケジュールを埋め尽くす会議や打合せ、そのための意味のない仕事。生産性を上げて、これらの処理能力を増やしても何にもつながらないのです。

目標は時間をマスターすることではありません。限られた時間を意味のあることに使うことです。
何に注意を向けるか、それが私たちの人生になります。

私たちはよくこう言います。

「時間がない」

しかし、時間はお金のように所有できるものではありません。時間は、人生そのものが展開していく過程にすぎません。効率化でわずかながらの時間の余裕が生まれても、節約した時間はたいてい、より多くの活動で埋め尽くされてしまうだけです。

合理化によって、人生の問題を解決することはできません。やることを増やすよりも、やることの意味や目的が重要です。それがなければ、極端な場合、自己改善は自己破壊となることもあるのです。

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参考文献
(1) Michael Touchton, “Tim Ferriss’s Recent Change of Heart Shows How Self-Improvement Can Fail You“, Medium, 2020/9/1.
(2) “Tim Ferriss: Why I Walked Away From Angel Investing After Uber & How I Accidentally Lost $150 Million“, 20VC, 2025/10/31.
(2) Tim Ferriss, “The Self-Help Trap: What 20+ Years of “Optimizing” Has Taught Me”, Tim Ferriss, 2026/3/4.
(4) Scott H. Young, “Would You Be Bored if You Had Everything?”, Scott H. Young, 2008/5.
(5) Cal Newport, “On Slow Productivity and the Anti-Busyness Revolution“, CAL NEWPORT, 2021/4/7.
(6) Oliver Burkeman, “Why time management is ruining our lives“, The Gardian, 2016/12/22.

 

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