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Less is more 脱成長:経済成長を目指さない社会

  • 投稿カテゴリー:社会が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年9月24日
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資本主義は、利益を追求し、経済を拡大し続ける、生産と消費の拡大に依存したシステムです。しかし、私たちの世界は資源が有限であるため、永続的に生産と消費を拡大し、経済を拡大し続けることはできません。クリーンエネルギーはすべてを解決しません。私たちは経済成長を目標としない社会を作っていかなければなりません。

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資本主義経済の限界

私たちは、資本主義を市場や商売といった言葉と同じ意味に捉えることがありますが、それはあまり正確ではありません。
資本主義は500年ほど前に生まれましたが、市場や商売は、資本主義が誕生する何千年も前から存在していたもので、資本主義がなくても成り立つものです。

資本主義は、利益を追求し、経済を拡大し続ける、生産と消費の拡大に依存したシステムです。そして、私たちは現在、その成功の度合いを国内総生産(GDP)という指標で測っています。
資本主義の下では、世界のGDPは少なくとも年率2~3%で成長し続ける必要がありますが、3%の成長は、23年で経済規模が2倍になることを意味します。それが今世紀の半ばごろには4倍になり、今世紀末には20倍になります。22世紀末には370倍になり、23世紀末には7,000倍もの経済規模になります。
はたして私たちは、この経済成長を実現することができるでしょうか?

私たちは、経済が成長し続けるという考え方をごく当たり前のこととして受け止めている節があります。たしかに、すべての生物は成長します。しかし、自然界では、どんなものにも成長の限界があります。生物は成熟するまで成長し、その後、健全な平衡状態を維持します。
私たちの資本主義経済に限界はないのでしょうか?

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GDPは豊かさや幸せを測らない

今では当たり前のように経済指標として定着したGDPですが、その歴史はそれほど長くはありません。

1931年、後にノーベル経済学賞を受賞する若き経済学者サイモン・クズネッツ(Simon Kuznets, 1901-1985)は、アメリカの国民所得(National Income)の計算を担当することになりました。(1)
国民所得を計算したのは、クズネッツが最初ではありませんでしたが、彼の仕事は、情報源の不足や偏った評価というそれまでの問題を解決する、包括的かつ緻密なものでした。その計算精度は高く、所得構造の分析を可能にしたため、国の経済の具体的な問題の研究に利用されるようになります。これが、今日使われている国内総生産(GDP)という指標の基礎になったのです。

しかし、クズネッツは、当初から国民所得には欠陥があることを強調しています。彼は、アメリカ商務省による国内総生産(GNP)の標準化に協力しましたが、「国民所得の尺度から国家の幸福度を推し量ることは到底できない」と、国の繁栄の基準にGNPを使用することに否定的でした。

GDPは、総生産額の市場価値を集計するもので、その生産が有益か有害かどうかは関係ありません。例えば、GDPは、100ドルの催涙ガスと100ドルの教育を同等に評価します。資本主義が使用価値や社会的価値ではなく、市場価値を前提にしているからです。
さらに重要なのは、GDPは生産に伴う生態系や社会的コストを考慮していないことです。労働時間を増やせばGDPは上がります。成人病やこころの病によって病院の受診率が上がればGDPは上がります。木材を生産するために森林を伐採すればGDPは上昇します。しかし、野生動物の生息地や排出ガスの受け皿である森林が失われることについては、GDPは何も語りません。

クズネッツは、1937年に米国議会に提出した報告書の中で、「国民所得測定の使用と悪用」と題して次のように述べています。(2)(3)

複雑な状況を単純化できる人間の優れた能力は、明確な基準の下で管理されないと危険である。特に定量的な指標は、結果がはっきりと表れるだけに、測定対象を、誤解を招くほど精密かつ単純に示してしまう。特に、国民所得の測定は、それが対立する社会集団の議論の中心となるのにもかかわらず、議論の有効性があまりに単純化された指標に依存するため、幻想と悪用にさらされることになる。。。

。。。国民所得を、生産性でなく、経済的な豊かさや幸福度の観点から解釈しようとして、表面的な数字や市場価値の奥に深く入り込もうとする場合は、さらなる困難が生じる。経済的な豊かさは、所得の分布がわからなければ、適切に測定することができない。そして、所得は、その裏にあるもの、つまり、その所得を得るために、いかに強力で不快な努力がなされたかを示すものではない。したがって、上記のような国民所得の測定から、一国の豊かさや幸福度を推し量ることはほとんどできない。

1962年、クズネッツはさらに次のように述べています。(2)(3)

成長の量と質、コストとリターン、短期と長期の違いを念頭に置かなければならない。さらに成長を目指すという目標は、何を何のために成長させるのか、目的を明確に示さなければならない。

日本では、将来的に何を目指すのかよく分からないまま、経済をブーストさせるために紙幣を大量に刷り続けたり、自らが発行する国債を自らが買い続け、膨大な借金を積み上げ続けています。このような持続不可能なトリックを使ってでも、経済の拡大を目指さなければならないシステムに問題があります。人や社会のニーズと関係がないところで、経済を拡大し資本を積み上げ続けるシステムに問題があるのです。

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GDPの拡大は、エネルギーと資源の利用も拡大するということ

生産と消費のレベルが拡大するということは、それを支えるエネルギーと資源の利用も拡大するということです。

科学者たちは、地球を維持するための資源利用の総量の限界は、年間約500億トンだと推定しています。(4)
しかし、1900年代前半で、年間70億トンから年間140億トンに増加した資源利用の総量は、1945年以降の数十年間で、急激に増加します。1980年には350億トンに達し、2000年には500億トンの限界を越え、そして2019年には960億トンという驚異的な数字を叩き出しています(下図参照。500億トン=50B tonnes)。

そして、この増加は、世界の貧しい地域の人たちの生活水準の向上によるものではなく、その大半は、高所得国における大量の資源やエネルギー利用、過剰消費によって引き起こされています。日本にいると気が付きにくいかもしれませんが、私たちの物資的豊かさは、途上国を利用することで成り立っています。なお、このような第一世界の国々が第三世界の犠牲の上に拡大し続けることを新植民地主義(Neocolonialism)と言います。

図:世界の資源採取量(1970-2019)
,based upon the UN IRP Global Material Flows Database, Vienna University of Economics and Business, 2022
※ Metal ores(金属鉱石)、Fossil fuels(化石燃料)、Non-metallic mineral(非金属鉱物)、Biomass(バイオマス)

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クリーンエネルギーが世界を救う

技術革新が私たちを救ってくれる、クリーンエネルギーがすべてを解決し、経済成長を「グリーン」にしてくれると信じる人がいます。
また、温室効果ガスの排出量削減など、限られた指標に基づいた努力で、すべてが解決すると思っている人もいます。

しかし、これだけでは問題は解決しません。

クリーンエネルギーは、排出量低減には役立つかもしれませんが、資源の利用、つまり、そのために生じる森林破壊、乱獲、土壌の枯渇を反転させるものではありません。
また、私たちが使うエネルギーは年々増加しています(下図参照)。その増加量は、クリーンエネルギーが新たに生み出すエネルギーより多く、つまり、テクノロジーがもたらす効率化は必要ですが、それだけでは圧倒的に不十分なのです。

拡大志向の経済では、効率改善で節約に役立つはずの資源が、さらなる成長のために使われます。
つまり、効率化が、新たな資源需要を増やし、利用拡大につながるのです。
これはジェボンズのパラドックス(Jevons paradox)と呼ばれます。
テクノロジーの進歩により資源利用の効率性が向上すると、資源利用コストが下がるため、逆に資源利用が拡大する結果となり、消費量は減らず、むしろ増加してしまうパラドックスです。

図:世界のエネルギー消費量の推移(地域別、一次エネルギー), 経済産業省資源エネルギー庁(5)(6)

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脱成長(デグロース:degrowth):成長を目指さない社会

脱成長(デグロース:degrowth)という概念は、1970年代に登場しました。
GDPにフォーカスすると、社会と生態系の健全性に何が起きているのかが見えなくなります。
脱成長は、繁栄の指標としてGDPを使うことをやめ、経済と消費と生産の拡大を目指すことをやめるものです。その代わり、社会的・環境的な幸福を高め、社会的に公正で、生態学的に持続可能な社会の実現を提唱します。

脱成長は主に3つの目標に焦点を当てています。それは、 ①環境悪化の抑制、②地域的・世界的な所得・富の再分配、③ 物質主義から参加型文化への社会転換の促進です。(7)

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変わり始める世界

実際に世界は変わり始めています。資本主義、つまり経済拡大主義は、世界で著名な経済学者の間でさえ、力を失いつつあります。2008年、フランス政府は、GDP以外の方法で成功を定義するためのハイレベルの委員会を設立しました。
同年、OECDEUは「Beyond GDP」キャンペーンを開始しました。
OECDは、住宅、仕事、教育、健康、コミュニティ、環境などの幸福指標を盛り込んだ「ベターライフ指数(Better Life Index)」という新しい指標を発表しました(下図参照:日本は表の真ん中辺りにあります)。

現在では、「持続可能な経済的幸福度指数(Index of Sustainable Economic Welfare)」や「真の発展指数(Genuine Progress Indicator)」など、その他の代替指標も増えています。
これらの指標は、GDPを社会的・環境的に修正したり置き換えることを目的としています。そして、この新しい考え方は、政策にも反映され始めています。

ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン前首相は、2019年、GDPの成長を目標にせず、幸福度を重視することを約束し、大きな話題となりました。スコットランドで人気のあるニコラ・スタージョン前首相もすぐにこれに続き、アイスランドのカトリーン・ヤコブズドッティル首相もこれに続きました。

図:OECDベターライフ指数(OECD Better Life Index), extracted on 2023/5/14

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解決策

しかし、資本主義を捨てるといっても、資本主義しか知らない私たちには、何をどうすればよいのか分かりません。

人間は欲とエゴのかたまりで、資本主義はその人間の特性をうまく利用したシステムです。
欲とエゴの力はあまりに強力なため、一度その果実を味わったものが資本主義を手放すことは容易ではありません。

今の社会を持続可能な社会に急激に変えるのは、革命やクーデターを起こしてでも難しいでしょう。
やるべきことは、目的を明確にし、その目的の達成に寄与することにできるだけ取り組んでいくこと、そうすることで、少しづつ人の価値観を変え、社会のシステムを変えていくことでしょう。

経済人類学者のジェイソン・ヒッケル (Jason Hickel, 1982-)は、2021年に書いた書籍「Less is More: How Degrowth Will Save the World(※ 現時点では日本語版は発刊されていません → 2023年4月に「資本主義の次に来る世界」というタイトルで発刊されていました。。。失礼しました。)」で、以下の5つの解決策を提示しています。その中には私たち個人に何ができるのか参考になるものもあるでしょう。

ステップ1:計画的陳腐化をやめる End planned obsolescence

計画的陳腐化とは、製品の寿命を短くする仕組みを人為的に組み込んだり、短期間に新製品を市場に投入し、旧製品を陳腐化させることです。
1920年代、アメリカのゼネラル・エレクトリック社を中心とする電球メーカーがカルテルを結び、白熱電球の寿命を平均約2,500時間から1,000時間以下に意図的に短くするように画策したのが始まりです。
都市伝説とも言われた「ソニータイマー」もそうです。ソニー製品に限らず、家電が何故か保証期間を過ぎるとよく壊れる現象をいいますが、私が学生の頃に買ったソニー製のオーディオ機器も、その後部品が生産中止になった途端に壊れ、修理不能となってしまいました。

スマートフォンで言えば、2010年から2019年にかけて、合計130億台のスマートフォンが販売されましたが、そのうち、使われているのは約30億台のみです。

製品に強制的な延長保証を導入することや、修理する権利を導入することが対策として考えられるでしょう。一般ユーザーによる修理が不可能な製品を製造することを違法とすることも可能です。またユーザー側にも使い続ける義務を課すことも考えられます。

ステップ2:広告をやめる Cut advertising

1990年代に行われた調査では、アメリカのCEOの90%が広告キャンペーンなしで新製品を販売することは不可能だと考えており、また、その多くが、広告は、必要のないものや欲しくもないものを買うように説得するためのものだと認めています。

最近では、グーグルやフェイスブックのような企業が、ものを買わせるために、巧みに私たちの潜在意識に訴えるようなさらに高度なツールを使用していますが、このような広告を抑制することで、人が必要としないものを買うことを抑制することができます。

ステップ3:オーナーシップからユーザーシップへの移行 Shift from ownership to usership

私たちが購入するものの多くは、たまに必要となるものの、ほとんどの期間使われないものです。年に1~2回、せいぜい1時間使うだけで、あとは1年中眠っているもののありますし、数年間一切使われないものもあります。

合理的な方法は、それらをコミュニティでシェアし、必要な時に必要な道具を使えるようにすることです。一部のコミュニティでは、すでにこのような取り組みがおこなわれています。

ステップ4:食品の廃棄をやめる End food waste

世界で生産される食料の50%(20億トン)に相当する食料が、毎年廃棄されています。

これは、サプライチェーン全体で起こっています。高所得国では、見栄えが悪い野菜の価値が低いことや、不必要に厳しい賞味期限などが原因で、大量の食品が廃棄され、生態系に多大な影響を与えています。食品廃棄をなくせば、理論上、農業の規模を半分にすることができます。

対応としては、廃棄食品に罰金を課すことなどが考えられます。フランスとイタリアは、2016年、食品廃棄禁止法を制定し、売り場面積が一定以上の広さがあるスーパーマーケットによる食品廃棄を禁止する法律を制定しました。売れ残った食品は慈善団体に寄付する必要があります。

韓国では、2005年に生ごみの埋立処分を全面的に禁止し、2013年には、家庭やレストランに、生ごみのコンポスト化が義務化されました。韓国は、世界トップレベルの生ごみリサイクル率を誇っています。

ステップ5:生態系破壊のインパクトが大きい産業を縮小する Scale down ecologically destructive industries

例えば、牛肉や豚肉ですが、放牧地やえさの栽培など、食肉生産のために多くの土地が利用され、森林破壊の大きな要因となっています。

温室効果ガスの総排出量のうち、畜産業による排出は15%近くを占め、排泄物は水質汚濁を引き起こします。しかも、過大な食肉が高所得国で消費されている一方で、低所得国ではたんぱく質の摂取が不足しています。

食肉産業はほんの一例です。他にもできることはたくさんあります。

プライベートジェット機の利用縮小や、電車で移動できるような短距離の航空路線の廃止、使い捨て製品の縮小、必要以上に大きな車や家の制限などです。生態系へのインパクトと連動した税制度なども考えられます。

そして私たちは、グローバル化によって世界に広がった長距離サプライチェーンに基づく経済から、より身近なところで生産が行われる経済へと転換しなければなりません。

以上の5つのステップは、全てを網羅したリストというわけではありません。

人間の幸福に悪影響を及ぼすことなく、資源利用を大幅に削減することができる例を紹介するものです。
すでに十分な規模を持ち、これ以上大きくする必要のない産業は何か?規模を縮小できる産業はないか?建設的な問いかけや対話を提起するものです。
脱成長を達成するのはたいへんですが、脱成長への第一歩を踏み出すのは、簡単にできます。

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さいごに

2022年、「幸せの国」として知られるヒマラヤの小国ブータンが、外国人客1人1泊当たりに徴収する観光税(Sustainable Development Fee)を、従来の65ドルから200ドルに大幅に引き上げました。
コロナウイルスによる入国制限解除後の外国人の流入を抑え、観光資源である自然環境と文化を保護するためです。
GNH(Gross National Happiness:国民総幸福量)を国の発展の指標に使っていることで有名なブータンですが、近年は欧米の文化の影響や近代化により、薬物や失業率等の問題を多く抱えています。

グローバル化は私たちに様々な恩恵をもたらしました。
世界を股にかけて移動し、世界中のものや人を利用することができるようになりました。
しかし、それは主に高所得国と高所得者への恩恵です。グローバル化は消費主義を世界に広げ、世界中で伝統的な幸せの形を壊し、新しい問題を植え付けていきます。ブータンのような取り組みは、今後の脱成長社会へのカギになるかもしれません。

資本主義の仕組みの中で働き、仕事で海外を回ることが多い私が書くのはとても矛盾しているのですが、行き過ぎたグローバル化や消費主義を振り戻す時が来ているのかもしれません。

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参考文献
(1) “Simon Kuznets“, wikipedia.com
(2) “Gross domestic product, Limitations at introduction“, wikipedia.com
(3) Simon Kuznets, “National Income, 1929–1932, Letter from the acting secretary of commerce“, 73rd U.S. Congress, 2d session, Senate, document no. 124, page 5-7, 1934.
(4) Stefan Bringezu, “Possible Target Corridor for Sustainable Use of Global Material Resources“, Resources 2015, 4, 25-54.
(5) “令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2022)“, 経済産業省資源エネルギー庁, 2022
(6) “bp Statistical Review of World Energy 2021 | 70th edition“, bp, 2021
(7) Inês Cosme, Rui Santos, Daniel W. O’Neill, “Assessing the degrowth discourse: A review and analysis of academic degrowth policy proposals“, Journal of Cleaner Production. 149: 321–334., 2017.

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