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公共財ゲームの表と裏:フリーライダーだけでなく、善意者も制裁を受ける罠

  • 投稿カテゴリー:社会が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年10月29日
  • Reading time:7 mins read

他人の善意にただ乗りする人、そのような人たちをフリーライダーと言いますが、社会への寄与が最も少ない人が、最も多くの恩恵を受けるという社会問題の課題の1つです。さらに問題を難しくするのは、善意にただ乗りする人に対してだけでなく、善意あふれる人に対しても不快感を持つ人たちが多く存在することです。

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公共財ゲーム:public goods game

以前公共財ゲーム(public goods game)フリーライダー(free rider)の問題を紹介しました。
公共財ゲームは、個人の利益と全体の利益が相反する状況で、人はどう判断し行動するのか知るためのゲームです。

具体的には、グループの共同基金にメンバーがそれぞれ好きな金額を自分で決めて入れます。
そして、共同基金に集まったお金は、何倍かされて、メンバーに均等に再分配されます。
では、あなたがこのグループのメンバーなら、いくら投じますか?というゲームです。

詳細は以前の記事をご覧頂きたいと思いますが、結果的に、共同基金に投じた金額が少ない人ほど一番得をし、最も多く貢献した人が一番損をします。社会への寄与が最も少ない人が、最も多くの恩恵を受ける、この問題はフリーライダーと呼ばれます。日本語では「ただ乗り」と言われますね。

 

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公共財ゲームのもうひとつの問題

実は、公共財ゲームは、フリーライダーと真逆の問題も含みます。

公共財ゲームで、最も貢献が高い人たちは、世界をより良い場所にしようとする、社会にとって大切な人たちです。
しかし、その貢献度が高すぎると、周囲の人たちから歓迎されないこともあるのです。歓迎されないどころか、厳しく評価されることさえあります。

「そんなことありえないでしょ!」と思う人がいるかもしれません。そのような人は次のゲームを考えてみてください。

公共財ゲームで、同じグループに所属する5人が共同基金にお金を投じます。5人はみな経済的には同程度の人たちです。
Aさんは500円、Bさんも500円、Cさんは600円投じました。Dさんは1円も投じませんでした。Eさんは、共同基金の目的に強く共感し、可能な限り貢献したいと思い、1万円を投じました。

もし、あなたが、AさんやBさんやCさんであった場合、DさんやEさんの行動をどう思うでしょうか?

Dさんは共同基金の仕組みにただ乗りしている完全なフリーライダーですね。あなたはDさんのことをずるいとか不公平だと思うでしょう。何らかの罰を与えたり、グループから追い出したいとさえ思うかもしれません。

ではEさんをどう思いますか?その素晴らしい行動を心から褒めたたえることができるでしょうか?

驚くことに、その反対で、最も献身的で利他的なEさんに対して、不快な感情を抱く人が多いのです。
極端な利他主義者であるEさんは、最悪のフリーライダーであるDさんと同じように、人からよく思われないことがあるのです。

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善意者蔑視:do-gooder derogation(1)(2)(3)(4)(5)

信じられないほど親切で道徳的にまっすぐな人たち、自己本位ではなく他人本位で、社会のために優先して行動する人たち、コミュニティのためにできることをしようとする人たち、、、このような人たちを気にいらない人たちがいます。

この心理を英語で「do-gooder derogation」と呼びますが、適当な日本語訳が見当たらないので、「善意者蔑視」と訳しましょう。
antisocial punishment」と呼ばれることもあります。日本語にすると「反社会的懲罰」でしょうか。
ちょっと分かりづらいですが、「反社会的な行動に対する懲罰」という意味ではなく、「懲罰が反社会的」という意味です。
どちらも社会に役立つ行動を取っている人を蔑む心理です。

善意者を蔑視する心理はとても非合理的なように感じますが、実は私たちの多くが抱く心理でもあります。
利他的な行動を賞賛したり支持するのではなく、むしろその逆の感情を抱きます。「鼻持ちならない」とか「善意者ぶっている」とか「何か裏があるんじゃないの?」などと、利他的行為を厳しく評価したり、その動機に疑問を抱いたり、仲間外れにしようとするのです。

なぜでしょうか?

なぜなら、その人たちと自分を比べるからです。
人に対する評価は「相対的」です。つまり、他の人の評価が上がれば、自分の評価は下がります。
これは他人に対して強い競争意識を生み出します。そのため、他人が自分より評価を上げないように常に注意を払う人たちがいるのです。

一般的に、他人や社会に献身的に活動する人たちは、社会から評価されます。
しかし、その人がグループの中の誰かである場合、グループの中での自分の評価は相対的に下がることを意味しますが、そのことが気に入りません。
また、その人に比べて、道徳的で利他的な行動を取っていない自分がバツ悪く感じられることもあります。
そのため、純粋な貢献の気持ちから行動しているのではなく、周囲からよい評判を得ようとしてやっているだけだなどと言って中傷することさえあるのです。

この心理現象は、多くの研究でも確認されています。(2)(3)(4)(5)

「善意者蔑視」「反社会的懲罰」は、程度の差こそあれ、ほとんどの文化圏で存在しますが、特に、社会規範が強い国ほど、また、個人主義より集団主義が強い国ほど、善意者を蔑視する傾向が強くなります。
そのような国では、悪い方に振れようが、良い方に振れようが、社会規範から外れている人たちすべてを罰し、社会規範に従わせようとするのです。

ただし、フリーライダーに対しては公然と非難するのですが、過度な利他主義者に対しては直接的な制裁を避けて、間接的に制裁を与えようとすることが多いです。

この心理傾向は人生の早い時期、8歳頃には現れるという研究結果があります。(6)
つまり、私たちに物心がつき、大人になる頃には、すでにこのような心理特性が備わってしまっているのです。

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善意者蔑視に陥らないためには

では、善意者蔑視に陥らないためにはどうすればよいのでしょうか?

善意者を蔑視する側と、される側の立場に分けて考えてみましょう。

まず、善意者を蔑視する側の人たちは、ここで説明したような、他人の親切行為に接して生まれる自分の感情の仕組みを理解することです。
本サイトでも繰り返し説明していますが、自分の行動や思考を変えるためには、まずその行動や思考を認識し、それがなぜ起きるのか知ることが大切です。

善意をする側の人たちにも同じことが言えますが、寛大さが歓迎される場合と、反発される場合があることを理解することが大切です。
そして、他人の評判を落としたり、プライドを傷つけたりすることなく、さらには、地位や名誉のために行動しているのではないかと疑念を抱かれたり、偽善者と中傷されることなく、善意を行う方法を知り、寛大さのバランスをとることです。

例えば、あるオンライン寄付のホームページを分析したところ、高額寄付者ほど、匿名を希望することがわかりました。彼らは、派手な親切行為が、そのページを見ている他の人たちから恨みや妬みを買う恐れがあることを知っているからです。(7)

また、ある人が、献血センターに行き、献血したとしましょう。友人や職場の人たちは、その行動に好印象を受けます。
しかし、その目的が献血後に受け取る特典のためだと思うと、社会的評価は下がってしまいます。やっていることはまったく同じで、間違いなく良いことをしているにもかかわらず、評価が下がってしまうのです。

人は常に他人の行動の背景にある理由を推測しようとしています。そうした推測は正しいときがあるかもしれませんし、正しくないかもしれません。私たちはしばしば、確かな事実よりも直感に基づいて物事を判断します。

親切な行為をする時は、できるだけ透明性を保つことです。そうでなければ、あなたが地位や名誉を得るために作為的に何かをしているように見てしまう人がいるのです。
あなたは純粋に親切な行為を世の中に広めたいと思うかもしれません。多くの人が認識してくれれば、影響力を高めることができます。しかし、一方で、残念ながらその思いが少しでも利己的だと判断されると、評価を落としてしまう可能性があります。

「なぜ善意をする側の人間がこんなに気を配らなければならないんですか!」とジレンマを感じるかもしれませんが、結局のところ、善意の誹謗中傷を避ける確実な方法は、その行為をできるだけ隠して行うことかもしれません。(1)

この世で最も気持ちのいいことは、匿名で善い行いをして、それを誰かが見つけることである。
~ オスカー・ワイルド

The nicest feeling in the world is to do a good deed anonymously-and have somebody find out.
~ Oscar Wilde

 

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参考文献
(1) David Robson, “‘Do-gooders’ are often judged harshly. Why do we resent their acts of altruism or question their motives?“, bbc.com, 2021/8/17.
(2) Benedikt Herrmann, Christian Thöni, Simon Gächter, “Antisocial Punishment Across Societies”, Science, Vol 319, Issue 5868, pp. 1362-1367, 2008/3/7.
(3) Nichola J. Raihani, Eleanor A. Power, “No good deed goes unpunished: the social costs of prosocial behaviour“,
Evolutionary Human Sciences, 3, e40, 1-21, 2021.
(4) Craig D Parks, Asako B Stone, “The desire to expel unselfish members from the group“, Journal of Personality and Social Psychology, 99(2), 303–310. 2010.
(5) Benoît Monin, “Holier than me? Threatening Social Comparison in the Moral Domain“, Revue internationale de psychologie sociale, p.53-68., 2007/1.
(6) Arber Tasimi, Amy Dominguez, Karen Wynn, “Do-gooder derogation in children: the social costs of generosity“,
Front. Psychol., Sec. Developmental Psychology, Volume 6 – 2015, 2015/7/21.
(7) Nichola Raihani, “Hidden altruism in a real-world setting“, Biology Letters, Royal Society Publishing. 10, 2014/1/1.

 

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