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変革を阻む「Uncertainty:不確実さ」のパワー:その1

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2022年9月19日
  • Reading time:7 mins read

変化や変革の取り組みに心や体が付いて行かず、なかなか一歩が踏み出せないのは「Uncertainty:不確実さ」、つまり情報がない、先が見通せない、コントロールできない事が大きく影響しています。「Uncertainty:不確実さ」の事例や対処法を紹介します。

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「Uncertainty:不確実さ」とは

VUCA(ブーカ)の時代と言われて久しくなりました。VUCAとは、Volatility:不安定さ、Uncertainty:不確実さ、Complexity:複雑さ、Ambiguity:曖昧さの頭文字を取った言葉です。
組織も個人も変化に適応していかなければなりませんが、一方で変化に心や体が付いて行かず、なかなか一歩が踏み出せないのも事実です。
その抵抗の原因となるのが、VUCAの4つの要素の1つでもある「Uncertainty:不確実さ」です。

「Uncertainty:不確実さ」とは「情報が不完全な状態または情報を知らない状態」を言います。
VUCAの別の要素である「Ambiguity:曖昧さ」と似ていますが、「Uncertainty:不確実さ」が、情報がない又は知らない、定かでない状態であるのに対して、「Ambiguity:曖昧さ」は、情報はあるが、その意味が不明、不明確である状況です(Wikipedia「VUCA」より)。曖昧さには「情報の意味が良く分からない」に加えて、「情報の意味が幾通りにも解釈できてしまう」も含まれるでしょう。

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人は「Uncertainty:不確実さ」を嫌う

人は「Uncertainty:不確実さ」を嫌います。
例えば、大切なお客さんとの打合せに電車やタクシーで向かっている場面を想像してみて下さい。
電車で向かっている途中、突然電車がストップ、「原因を確認しておりますので暫くお待ちください」のアナウンスが。。。
タクシーのケースでは、事故か工事か分からないが、想定外の渋滞に巻き込まれ全然車が動かない。。。

「う~ん、着くのギリギリになっちゃうかもな。。」。
5分経っても状況は変わらず。「やばい、ちょっと遅れるかも。。」
更に5分経っても状況は変わらず。「どうなってんだよ、このままだと全然間に合わない。早く動け~!」
焦りますね。心配、ドキドキ、イライラが募ります。

では、このようなケースはどうでしょうか?
同じようにお客さんとの打合せに車で向かっている途中、「この先渋滞発生中。通過まで1時間」の電光掲示板の表示が。もう100%打合に間に合いません。
「何~!」と思いつつも、「はー、これはもうどうしようもない、まず謝りの電話入れるか」。意外に、先ほどの5分遅れそうなケースより落ち着いて対応できたりします。

最初のケースでは、約束した時間に着くか着かないか「Uncertainty:不確実さ」があり、心配、ドキドキ、イライラが募るのですが、後のケースは打合せに遅れることがもはや確実になり、不確実さがなくなったので、むしろ冷静に対応できるのです。

別の例を挙げましょう。
初めて行く国に個人旅行で出掛ける場合、さまざまな「Uncertainty:不確実さ」に遭遇します。降り立った先の空港で現地通貨に両替できるのか、空港に変な奴はいないか、空港から街中へのバスのチケットはどこでどうやって買えばいいのか、バスを降りる時は社内に停車ボタンがあるのかそれとも運転手にその旨を告げるのか、バスを降りた後タクシーは捕まるのか、タクシーは安全か、ぼったくられないか、分からないこと(Uncertainty)だらけで不安でいっぱいです。しかし、一度この作業を経験して移動方法が分かると、2回目以降はこの点では全く不安なく空港から街中まで移動できるようになります。「Uncertainty:不確実さ」がなくなるからです。

さらに別の例として、現在(2021年2月)第3波の最中にあるコロナウイルスを挙げましょう。
今後コロナウイルスがどうなるのか、ワクチンはいつ接種できるのか、仕事や生活に今後更にどの位影響するのか分かりません。コロナウイルスは世界中に長く大きな「Uncertainty:不確実さ」をもたらし、世界中の人を不安に陥れています。

これが例えば、「コロナ第4波が2021年4月、更に第5波が6月に来て、それぞれ3週間の緊急事態宣言で抑え込みができた後、希望者へのワクチン接種は2021年10月に概ね完了し、11月1日に政府がコロナの収束宣言をします(例えばです。予言しているわけではありませんので。。)」と先に分かっていれば、依然として大変ではあるものの、人々の心配や不安は大きく低減します。
事前に先の状況が分かるので、「まじか!第5波まであるのか!でもまだ時間があるからどう対応するか考えておくか」とか「コロナが終わった後の11月の連休に旅行の計画でもして今は頑張ろう。旅行では羽を伸ばすぞ!」と準備できます。

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Fear of the unknown

不確定さ、未知への恐れは、私たち人間に組み込まれている防御システムであり、人間のごく自然な反応です。
英語では「Fear of the unknown」と言いますが、知らないということは、心理学上も、恐れや不安を引き起こす要因になります(Wikipedia「fear」より)。
さらに不安は、落ち着きのなさ、緊張感、不快感、心拍数の増加、異常呼吸、発汗、震え、胃腸の問題、睡眠や集中力の低下を引き起こす要因となり、更なる不安障害として、社交不安障害、パニック障害、ストレス障害、アルコール使用障害、摂食障害、強迫性障害等につながることもあります(1)(2)
「Uncertainty:不確実さ」は、私たちにさまざまな問題や障害をもたらし得る強力なパワーを持っています。
※ 上記の不安障害等の対応に関しては、メンタルヘルスや心理療法等のカウンセラーの支援が必要になります。チェンジマネジメントは精神的な障害がない場合を扱います。

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「Uncertainty:不確実さ」への対処法

では、この「Uncertainty:不確実さ」にどう対応すれば良いのでしょうか?
2つ方法を紹介します。

1.出来るだけ未知である状態、不確実な状態を避けること

組織における「Uncertainty:不確実さ」 には、外的要因、組織要因、個人要因の3つの不確実要因があります(3)
コロナウイルスのような外的要因の不確実さを低減するのは難しいですが、組織要因であれば、出来るだけ組織内で情報を共有する、情報が行き届かない状況を避けるなどで、不確実さ、会社の場合は従業員たちが知らないという状況を低減することができます。

逆に情報を共有せず「Uncertainty:不確実さ」を放置、蔓延させると、従業員の士気や意欲、エンゲージメントの低下に繋がります。
会社の改革の取り組みに従業員が消極的であったり積極的でない理由の1つとして「取り組みの目的や内容がそもそもよく知らされていないから」という場合があります。実は、きちんと情報を共有するだけで、従業員の自律性、積極的な行動が促されることもあります。情報を得たことでそれを自分の中で消化して考えることができるからです。情報がなければできません。
また情報が共有されていないという意味での「Uncertainty:不確実さ」以外に、取り組みの目的やプロセスがそもそも明確でない、または決まっていないという意味での不確実さ、先が見通せないという意味での不確実さもあります。
以前紹介した働き方改革での失敗のように、何のために取り組みを行うのか目的が明確でなければ従業員はついてこれません。

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2.未知に対して「恐れ」ではなく「興奮・楽しさ」を持って対応できるようにすること

「未知への恐れ」を感じるのは、人間の自然な反応であると先に説明しましたが、ある人たちは、恐れを興奮に変えること、同じ状況下でも、恐れではなく興奮を持って対応することができます。実は恐れと興奮というのは、表裏一体の感情です(6)(7)(8)(9)

例えば、先に紹介した、初めて行く国に個人旅行で出掛ける場合の、現地での分からない状況(Uncertainty)に対する不安ですが、ある人たちにとっては、その分からないことを経験するのが楽しみであり、未知との遭遇が興奮をもたらすのです。
何か国も1人旅で巡っているバックパッカーのように、個々の国の入国後の手順は分からなくても、経験上「Uncertainty:不確実さ」にどう対応すればよいかを知っているような人たちです。

未知に対して、恐れではなく興奮で対峙できることはスキルです。つまり習得できる能力です。
何度も未知のものに接し、それを既知に置き換える作業を繰り返して、未知に対応する場を積み上げていきます。最初は勇気と努力が要りますが、誰もが手に入れることのできるスキルです。
学習と経験を重ねて未知への対応力をつけ、自信を持って未知の領域に足を踏み入れることができるのです。
学習と経験で得た自信によって、例え困難な状況でも、未知のことにどのように対応するべきかを知り、行動できるようになります。

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リーダーとして

これはビジネスでも同じです。たとえ小さくても未知の領域に足を踏み入れる学習と経験を重ねない限り、いつまでも未知への恐怖から抜け出せません。

ビジネスリーダーとしての選択肢は2つです。

  • 勇気を持って1歩1歩未知の領域に足を踏み入れるリーダーとなるか?
  • 未知のものから可能な限り目を避け、組織と外部環境の間に壁を築くことに躍起となり、「何も今までと変っていない」と幻想の「Certainty:確実さ」にしがみ付き、従来通りやってきた仕事をただただ盲目的に続けるリーダーとなるか?

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次回、変革を阻む「Uncertainty:不確実さ」のパワー:その2で、不確実さへの対応を更に紹介していきます。今回は、アメリカの作家 John A Shedd (1859 – 1928)の言葉を引用し、ひとまず失礼します。

船は港にあれば安全だが、船はそのために作られるのではない ~ ジョン・A・シェド
A ship in harbor is safe, but that is not what ships are built for. ~ John A Shedd

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参考文献
(1) University of Illinois at Chicago, “Fear of the unknown common to many anxiety disorders“, 2016/11
(2) Rebecca Joy Stanborough, “Understanding and Overcoming Fear of the Unknown“, 2020/7
(3) Anthony F. Buono and James. S. Bowditch, “The Human Side of Mergers and Acquisitions: Managing Collisions Between People, Cultures, and Organizations”, 2003/3
(4) Prashant Bordia, Elizabeth Hobman, Elizabeth Jones, Cindy Gallois and Victor J. Callan, “Uncertainty during Organizational Change: Types, Consequences, and Management Strategies”, Journal of Business and Psychology, 2004/6, pp. 507-532
(5) Jones, L., Watson, B., Hobman, E., Bordia, P., Gallois, C., & Callan, V. J., “Employee perceptions of organizational change: Impact of hierarchical level.”, 2008/6, Leadership & Organization Development Journal, 29(4), 294–316
(6) Aytekin Tank, “How to learn to embrace your anxiety (and turn it into excitement)“, 2019/9
(7) Helaina Hovitz, “Some Simple Ways to Turn Anxiety into Excitement“, 2021/1
(8) Mike Veny, “Are Anxiety and Excitement the Same?“, 2018/10
(9) Agnesia Agrella, ”Embrace the unknown: Is it possible to turn fear into excitement during lockdown?”, 2020/5

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